昼休みを告げるチャイムが鳴り響くや否や、名前は手慣れた様子でトートバックを掴み隣室へと向かった。

授業が終わっているであろうその教室の扉を容赦なく開けば、目的の人物はすぐ視界に入る。


「和成ー、お弁当ー」

「おー、名前サンキュー」

「それから、可愛い可愛い妹ちゃんからの伝言!ネックレス今度使うから返してだってー」

「あ、やべ…真ちゃんに返してもらってから返してねーわ。机に置きっぱ」

「お、今日も高尾夫婦は仲良いねー。愛妻弁当ってか!?」

「名字、高尾と同じクラスじゃなくて残念だな」


家族ぐるみで仲が良いのだとよく分かるそのやりとりに、高尾の近くにいた男子生徒たちから冷やかしの声が上がった。

名前は眉根を寄せるが、それは不愉快というよりは呆れを表しているようである。


「私と和成は夫婦じゃなくてただの幼馴染みだってば。このお弁当も和成の忘れ物!」

「こーゆーのを腐れ縁ってゆーんだろーな」


弁当を受け取った逆の手で、高尾は名前の頭を撫でた。

髪がぐちゃぐちゃになる、と怒りながら名前がその手を払いのけるのも此処ではもはやいつもの光景なのである。

それもそのはず、両親同士が古くからの知り合いで、その子供が同い年とくれば必然的に家族ぐるみの付き合いにもなると容易に想像出来ると思うが───高尾と名前がまさにそれなのだ。

勿論この幼馴染み事情を知っていて友人たちもからかっているわけなのだが、名前はともかく高尾はその性格故軽く浅く流してしまう。

クラスの人気者で、からかわれても動じず綺麗に纏めてしまう男子生徒と、なんだかんだと言いながらも男子生徒の傍に居続ける女子生徒。

周りからそういう目で見られても仕方がない気がするが───幼馴染み2人を中心としたいつものやりとりに、心底穏やかでない人物がいた。

ノートなど授業で使っていた筆記用具を黙々と片しながらも、その緑の双眸は明らかに何かを訴えている。


「…………」


彼はがたりと音を立てて席を立つと、一言も発しないままぐんぐん名前がいる教室の出入り口へと向かった。


「え、ちょ、緑間くん…!?」


そしてやはり無言のまま、呆然とする名前の腕を掴むと引き摺るように廊下を進んでいく。

残された男子生徒たちは目を丸くして2人を見送っていたが、ただ1人高尾だけは愉快そうに口元を緩めていた。


「ごゆっくりー」


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