今だって、目の前の出来るだけ敵に回したくない主将が静かに、だが攻撃的に威嚇してきている。

アイツにとって、オレはチームメイトであると同時に敵なんだ。


「……そろそろ時間か。ちょお行ってくるわ。諏佐まだおるよな?」

「ああ」

「ほな悪いけど荷物見といたって。手ぇかかる後輩おると大変やで、ホンマ」


何が面白いのか、楽しげに笑った今吉は、ひらひらと手を振りながら去っていった。

大方監督と桃井のところに行ったのだろう。

桐皇のゲームは、個人主義とは言えどあの3人で組み立てられているようなものなのだから。


「後輩って若松くん?それとも青峰くんの方?」

「さぁな。どっちもだろ」


進路に部活、そして───力を注ぐことが多すぎる高校生活も、いよいよ終わりが来ようとしている。

オレとコイツの関係も、この3月で終わってしまうのだろうか。

こんなに近くにいるのに、いつでも顔を合わせることが出来るのに、臆病なせいか心は一歩も歩み出すことが出来ないでいた。


「てか勉強しなくていいのか、名前」

「数学のプリントはやったよ」

「そうじゃなくて」

「分かってる。受験の方でしょ」


途端にむくれだす名前。

それすら微笑ましいと思ってしまうオレはもう重症だろう。

とっくに認めてるんだ。

コイツが好きだって。


「今吉とも話してたんだけどさー、卒業したらこういうのも無くなるんだよね」

「だろうな」

「何かヤダ」

「ヤダって…」

「佳典とはクラスは違ってもずーっと同じ学校だったし。何かヤダ」


コイツはこの発言にどれほどの威力があるのか分かってるんだろうか。

いや、こういうところが抜けてるのがオレの知ってる名前だ。


「じゃあ同じところに行けばいいだろ」

「嫌味か」

「他にどーしろって言うんだ」

「何か考えてよ」


このとき真っ先に思い浮かんだのは、先程盗み聞きしてしまう形になった、今吉のあの言葉だった。

結局同じ大学へ進学というわけにはいかないが、それでもオレ達がそういう関係になれば、無条件で隣に立つことが出来る。

しかしここまで考えが巡ったところで、オレはまた現実に戻ることになった。

名前にとって付き合いの長い幼馴染みであるオレは、それこそ関係が変わらなくとも無条件で隣に立つことが出来るのだ。


「………………オレが合わせるとかないからな」

「えー、そこは空気読んでよ。てか嫌味か」

「オマエなら出来るだろ」

「何が?」

「オレと同じところに行きたいなら、頑張れるだろ」


ぴたりと静かになったかと思うと、名前はオレのペンケースの中身を勢い良くぶちまけた後、よく分からない捨て台詞を残して走り去っていった。

図書室だぞ此処───まぁとりあえず、少しでも意識を上書き出来たのならいいだろう。

机に散らばったシャーペンを片付けながら、オレは人知れずほくそ笑んだ。


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