「さすが今吉…アンタいなかったら私絶対卒業出来ない」

「いや頼むでホンマ。ちゃんと卒業して同じ大学行こーや」

「嫌味か」


どこ志望してるか言ってみろ!…って言いかけたけどやっぱ止めた。

自分が惨めになるだけだし。


「でも卒業したら、こうやって今吉と勉強することもないんだよね」

「寂しいって?」

「そりゃまあ…ね」


思えば1年で同じクラスになってから、バスケ部繋がりかつ佳典繋がりで結構いろんな話をしてきた。

こうやって、勉強だって教えてもらってるぐらいだしね。


「ほな定期的におーたらえーんちゃう?バスケしよーや」

「今吉と?絶っ対ヤダ」

「…ホンマに嫌そうやな」


わざとらしく肩を竦めてみせた今吉の手が止まる。

いつの間にか例の課題プリントは、要領を得た解説付きのプリントへと進化していた。

………その横のよく分からない図はどうにかならなかったのだろうか。


「アンタのバスケ怖いもん」

「おーきに。女バス主将に褒めてもらえたなんて自信つくわ」

「いつ褒めたよ」


肝心の答えはけして書かれていない解説を参考に、問題を解きにかかる。

これだけ説明があるのだから、もう問題はただの計算と言えば計算だけど、私はこの単純な計算の正答率が極めて低い。


「これがこれでー、これがこれでしょー?」

「マイナス忘れてんで」

「またか」


笑いながらケアレスミスを指摘され、私は半ば呆れながらも消しゴムを手に取った。

たかだか線一本なのに、このマイナスがあるかないかで大違いだからね。

それからも、今吉は自分の勉強の片手間に私の勉強も見てくれ、何とかプリントの解は全て埋めることが出来た。

試験も単純な計算さえミスらなければ、多分単位はもらえる。

イコール卒業は出来る。


「あーもーホント胡散臭いけど今吉クン大好きだわ」

「そらどーも。ワシもなんやかんやで可愛い名字サン大好きやで」


にっこり、という音がしそうな程にこやかに笑ってみせる今吉に対抗して、私も媚を売るように微笑んでみせた。


「ほな大学入学したら付き合おか」

「ぶっ!!?」


思わず吹き出した私が敗北感に浸ろうとしたとき、聞き覚えのありすぎる声が控えめに響く。


「名前?」

「おぉ諏佐やん。おかえり」


何事もなかったかのように佳典を迎えた今吉は、相変わらずの余裕顔だった。

いや、今のは冗談だろうけどさ…してやられたわ。

腹癒せに隣に座った佳典を叩いたら、よく分からないけど頭を撫でられた。

向かいからの視線が何故か痛いです。


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