「ねぇキヨちゃん、清志!」

「何しに来たんだよ」


校舎と校舎の陰、一目のつきにくいところまで来たところで、宮地は漸く手を離し振り返った。

たっぷりの舌打ちと眉間の皺から不機嫌だとすぐ察することは出来たが、これぐらいで怯む彼女ではない。


「何イライラしてんの?清志のイライラがほぼ八つ当たりでヤバいって、泰ちゃんからSOS来たんだけど」


高い位置にある鋭い双眸を見据えると、宮地からはやはり舌打ちが返ってくる。

これは相当苛立っているらしい。


「私がいたときから言ってるけどさ、清志が怒ってくれるから他の子がもーちょい優しく諭せるのは確か。でも、もっと肩の力抜いてもいーんじゃない?」

「うっせーよ」

「そんなんだから後輩からビビられんのよ」

「うっせーな、轢くぞ」

「轢けるもんなら轢いてみなさい」

「マジだまれ」


その瞬間、思い切り背中を校舎へ押し付けられた名前が顔を顰め呻くも、その声すら飲み込むように宮地が覆い被さり、僅かに開いたままだった唇を塞いだ。

きゅっと眉根を寄せた名前は、慌てて彼の胸を押し返す。

しかし彼女を心身共に捕らえてしまった彼が、そう簡単に退くはずもなかった。


「…んん…ッ…、清志…」

「だまれっつったろ」


どれだけの時間そうしていただろうか、全てを吸い尽くされてから漸く解放された名前は、すっかり手足の力が抜けてしまっていた。

戦意喪失もいいところである。


「…………清志のバカ」

「お前より成績いいだろ。てかこんな時間まで何してたんだよ」


縋るように撓垂れる名前を胸に抱きながら、宮地は言った。

その温かさに頬を擦り寄せ、名前は大きく息を吐く。


「進路相談。私保留だったから」

「で?」

「大学行くよ。清志と一緒のとこ行けるかは分からないけど」

「ふーん」


訊いておきながらの素っ気ない返答に、名前は目の前の練習着を握り締めた。


「あーもー、絶対勉強もレッスンも頑張って、いつか清志の推しメンになってみせるんだから!」

「みゆみゆには勝てねーよ」

「はぁ!?それ普通彼女に言う!?」









その頃、取り残された体育館では。


「にしても宮地センパイの彼女可愛かったよな」

「いや可愛いけどさ、あのセンパイをキヨちゃんだぜキヨちゃん」

「すげーよな、いろんな意味で」

「まあ、名字は現役地下アイドルだからな。そこらの女子とは違うさ」

「「ええええええええ!!?」」


明らかになった新事実に、本日何度目か分からない悲鳴が谺した。


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