その日、秀徳バスケ部の1年は震え上がっていた。
いつもながらの厳しい練習は、それこそ胃の中のもの全て吐き出しても足りない程のものだったが、それより凄まじい重圧に押し潰されん勢いだったのだ。
「チンタラしてんじゃねーぞ1年!!やる気ねーなら最初から来んな!!!」
容赦ない怒声に心臓を直接鷲掴みにされたかの如く縮み上がった1年は、蜘蛛の子を散らすように猛スピードで動き出す。
同じコートに立つ機会が多く、自分にも他人にも厳しい彼を他の1年より近くで見てきた高尾と緑間でさえも冷や汗を流す程、今日の宮地の機嫌は最悪だった。
「ちょ、マジ何で宮地サン今日あんな機嫌悪ーの?」
「…オレ達を含め、1年がチンタラしてたんだろう」
よくよく見れば、宮地と付き合いのある大坪や木村でも今日の彼は手に負えない様子である。
宮地がバスケに真面目で厳しいのは周知のことではあるが、特に1年の練習態度が目についてしまったらしくまさに集中砲火状態。
これは1年にとって長い1日になりそうだ。
───と、その時。
「キーヨーちゃーん」
どこか気が抜けるような柔らかい声が飛んできた。
息を飲んだ面々がそちらを見やると、その声の主は気怠げな様子で、それでいて可愛らしい女子生徒だ。
柔らかくも深い響きを持つ声は耳に心地好く、その容姿は全校生徒の中でも特出した雰囲気を持っている。
その人物が誰かを把握した瞬間、一瞬静かになった体育館に一気に音が帰ってきた。
「名字!?」
「名字センパイ!!!??」
「マジかよ!!」
「登校してたのか!!」
2年3年が途端に喧しくなり、置いてきぼりを食らった1年は目を丸くしたままである。
先輩たちの驚きっぷりは尋常ではない。
「ちょ、キヨちゃん痛い!痛いってば!」
「うるせぇだまれ!何しに来た名前!」
悲鳴に近い声が飛び交う中、颯爽と前に出た宮地は少女の腕を乱暴に鷲掴むと、有無を言わさず体育館外へと連れ出していった。
再び体育館は静寂に包まれる。
「………え、ダレあの人」
「知らん。3年生であることは間違いないだろうがな」
ええー、と驚きを隠せない高尾の隣で、緑間も微妙な表情のまま溜め息を吐いた。
少女と知り合いのはずの宮地が帰ってくる気配はないようだ。
「ああ、1年は知らんだろーが、あいつは3年の名字名前」
事態を把握出来ていない後輩のために口を開いた大坪だったが、返ってきたのはまた違う意味での悲鳴だった。
「元バスケ部マネージャーで、宮地の彼女だ」
「「ええええええええ!!?」」
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