「やっぱり新聞とか見とく方がいいよね?」

「ああ…それからエッセーもあれば見ておきたいんだけど」

「それはPCで検索してからの方がいいかも」


何せこの学校は広大すぎる。

───いや、もしかしたら他の学校もこれぐらいなのかもしれないけど、私からすれば移動教室だけでも嫌になるぐらいだからね。


「へぇ、洋書もあるんだ」

「うん、そこ一帯がそうだよ」


本棚の間へと消えていった氷室くんを追うと、彼はどこか楽しそうに背表紙に目を走らせていた。

この辺りは洋書だったり、原文のままの本が置いてある。

英語のものが多いって司書のお姉さんが言ってたから、帰国子女である氷室くんからすれば見慣れた言語のコーナーなのだろう。


「氷室く…」

「名字さん」


真剣な様子で名を呼ばれ、私の体が一瞬で強張った。


「実はこの時を待ってた───って言ったら、怒る?」


疑問符を返す間もなく、柔らかく微笑んだ氷室くんが近寄ってくる。

反射的に後退っても、伸びてきた腕に捕らえられてしまった。

後ろには本棚、左右には腕、正面には余裕綽々な氷室くん。

しゃがんで腕をすり抜けて逃げるなんて無謀な方法、出来るはずもない。


「あの…氷室くん?」

「ん?どうした?」


いや、どうしたじゃなくて!

声に出さずにツッコんだのが分かったのか、氷室くんは小さく笑いを漏らす。


「ごめん、名字さんって結構顔に出るから…可愛いなって思って」


いやだから!


「冗談じゃなくて、本気で言ってるんだけどな」


本当に顔に出てるのか分からないけど、どうやら私の胸中は彼に丸見えらしい。


「名字さん、意外にガード固いから大変だったよ。素直に話せば皆協力してくれたけど」


私には彼の胸中が全く分かりません。

つまり、クラスの子も全員ぐるだったってこと?


「好きなんだ、名字さんが」


いやいや、待って待って待って待って!


「待たない」

「ちょっとほんと待って氷室くん、ついていけな…」

「静かに。ここ図書館だよ」


自然に近付いてきた端正な顔に、真っ赤な私の顔は覆い隠された。

ごもっともだけど煩くさせたのは誰だよ!って言いたいのに、口を塞がれてるから何も言えないし、そもそもこんなところ誰かに見られたら私絶対死ねる。


「氷室く、ん…」

「ねぇ、名字さん。こんなオレは嫌い?」


いや、その前に私が蕩けて死ぬわ。


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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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