遥は横目で、隣に立つ背の高い後輩を見た。
モデルとしてもバスケットボールプレイヤーとしても有名な彼は、眩しい笑顔で遥を見下ろしている。
「センパイ、そのネックレスかわいいっスね」
「ありがとう。この間お揃いで買ったんだ」
にこにこと機嫌の良さそうな黄瀬は、遥の首に下がっているネックレスの先をつついた。
短めのチェーンにぶら下がる、小さめのハートが揺れる。
「お揃いっスか…今度オレともお揃いにして下さいっス」
「いいよ。何にしよっか」
「じゃあ───」
仲良さげに戯れながら話し込んでいる後輩2人を前に、海常バスケ部主将・笠松は絶句していた。
完全にアウト・オブ・眼中である。
「…………」
今日、自分は黄瀬と買い物に来た。
そして他校の後輩であり、黄瀬の先輩でもある七瀬遥と遭遇した。
彼女を慕う黄瀬が自分を置いて行ってしまって───と、脳内で振り返っていた笠松の目の前で、事件は起きる。
「逃げちゃダメっスよ」
「でも…」
「遥センパイ」
眉尻を下げ困っている様子の遥の手首を掴み、何かを諭すように迫る黄瀬。
屈んだ彼の顔が彼女の首筋に埋まるのを見たとき、笠松は反射的に足を出した。
「何してんだオマエは!!」
「いっ!!!」
主将の見事な蹴りを脇腹に食らった黄瀬は、短い悲鳴を上げてよろめく。
その隙に、笠松は遥の肘を引いて後輩から離れさせた。
「え、笠松さん!?いらっしゃったんですか?」
突如現れた救世主の姿に、遥は大きく開いた目を瞬かせる。
笠松は近くで2人を眺めていたのだが、黄瀬のせいで全く視界に入っていなかったのだ。
「マジで気付いてなかったのか…いや、いいけど」
掴んだままの腕を一瞥し、笠松は小さく溜め息を吐く。
「つか七瀬、嫌なら本気で拒否しろよ。アイツに限らず何されっか分かんねーぞ」
「すいません…」
「───こんな風に」
低い声音でそう付け足した笠松の唇が、未だ自由を許されぬままの遥の腕へと落とされた。
思いがけない事態に、遥は息を飲むだけで動くことが出来ない。
「もー、いくら羨ましいからってヒドイっスよ…」
どこか不穏な空気が漂い始めた頃、涙目の黄瀬が脇腹を摩りながらやってくる。
一瞬言葉を飲み込んだ笠松は彼へ向き直ると、反対側の脇腹目掛け、力を込めた拳を突き出した。
「余計なこと言うんじゃねーよ!」
「ちょっ、ホントのことじゃないっスか!今だってちゃっかり───」
笠松の目つきが一気に鋭さを増す。
「大体オマエが…!」
危険を察し後退る黄瀬だったが、それとほぼ同時に笠松は走り出していた。
何故か突然始まった先輩後輩の追いかけっこを目で追いつつ、蚊帳の外に置かれた遥はどうしようかと首を捻る。
「笠松さんと涼太、ほんと仲いいよね…」
彼女の呟きは、響き続ける男2人の言い合いにあっさり掻き消された。
腕と首に欲望のキス
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