「"鷹の目"ってどれぐらい見えてるの?」
ずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした遥は、通称"鷹の目"と呼ばれる特異な目を持つ他校の後輩を見つめる。
後輩───高尾の瞳は一見至って普通の瞳なのだが、これがバスケにおいて非常に役に立つ瞳なのだ。
「俊が……あ、"鷲の目"を持ってる子が、"鷹の目"の方が視野が広いって言ってたんだけど」
「ああ、PGの」
そうだな…、と高尾は悩む仕草を見せた。
自分にしか見えていないことを、人に説明するのは難しいのだろう。
「後ろ見えてるの?」
遥のチームメイトで"鷲の目"を持つPG・伊月は、時々背後が見えているかのような素晴らしいパスを繰り出すときがある。
そして、それは高尾にも言えることだった。
かつて伊月に説明してもらった話では、所謂空間認識能力の問題らしいのだが、これと後ろが見えるのとはまた別問題に思われる。
「んー、まあ平たく言えば見えてますね」
高尾は頬を掻き、言葉を選びながら言った。
その直後、彼の頭上で見えない電球が光ったようだ。
「やってみます?」
いいことを思いついた、と言わなくても分かる表情で、高尾は足取り軽やかに歩み寄ってくる。
遥は直感的に後退するが、向かい合う相手が距離を詰める方が早かった。
追いついた腕を掴むと、彼は戯れるようにそこへ口付ける。
「ちょ、なんで逃げるんすか」
「なんとなく…」
「…でもそれ正解かも」
意味ありげに薄笑いを浮かべた高尾は、遥を包み込むように隙間なく抱きしめた。
彼の胸元でもがく遥の頬がほんのり色付く。
「高尾くん…?」
「遥サン、顔真っ赤じゃないすか。カワイー」
からかいの色が隠しきれていない、彼らしい声音。
「からかってるでしょ」
「からかってませんって」
「そんなに笑いながら言ってるのに?」
「あれ、オレの顔見えてます?」
正面から抱きしめられているのに見えるはずがない───と言いかけて、遥は口を噤む。
見えなくとも今の高尾の表情は想像に容易い。
彼もおそらく同じだろう。
「…やっぱりからかってる」
遥は頬を膨らませ呟いた。
その反応が余程気に入ったのか、高尾はご機嫌な様子で囁くと、そのまま顔を下げて首筋へと唇を落とす。
「拗ねてる顔もカワイイ」
「高尾くん…!」
「ゲッ」
咎めるように遥が名を呼んだ途端、先程までの余裕は何処へいったのか、高尾は蛙を踏み潰したような声を上げた。
しかしばつが悪そうなわりに、遥を拘束する手は緩まない。
「…遥サン、今オレの視界に"ある人物"がイマス。振り返らずに誰が来たか当ててみてクダサイ」
「…………もしかして」
特異な目を持たずとも、高尾の反応から誰が来たのか分かるような気がする。
だが遥が答えを言う前に、"ある人物"の低い声が響いた。
「───────!」
腕と首に欲望のキス
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