(微シリアス/木吉入院中)


「あ、今日コガくんがね…」


何処を見ても真っ白で清潔感溢れる病室のベッドの傍ら、パイプ椅子に腰掛けた遥はここ最近の出来事を話していた。

クラスでの出来事や部活での出来事、家での出来事など、話のネタはいくらでもある。

その中から木吉が楽しめる話となると多少限られてはくるが、個性豊かな友人たちと忙しい日々を送っている遥からすれば、それでも話したいことは山程あるのだ。


「それから順ちゃんが…」


ベッドの上で上半身を起こしてその話を聞いている木吉の表情は、彼らしい穏やかなものだった。

それこそ最初は、遥もどんな話をすべきか悩んだものだが、木吉自身そんな素振りを全く見せず、いつもの調子で皆の話を聞かせてほしいと頼んだので、彼女も前向きに考えを改め今に至っている。


「それでね、リコったら…」


高校生活の全てを部活に捧げているせいか、やはり部活関連の話は尽きない。

良き仲間たちとの面白おかしいエピソードに相槌を打っていた木吉が、ふと遥を呼んだ。


「……遥」

「ん?」


優しい表情の彼を見つめ、次に続く言葉を待つ遥だったが、その眉が僅かに下がったのに気付き慌てて腰を浮かした。


「私……」


話すのに夢中になって、何か気に障ることを口走ってしまっていただろうか。

それとも、治療中の膝が痛むのだろうか。

遥の思考が不安で覆われたとき、身を乗り出した木吉の大きな手が伸びた。


「遥」


背中に回った温かい腕が優しく、だが力強く遥を引き寄せる。


「鉄平…」


まっすぐな視線が交わったのは一瞬。

咄嗟に瞼を閉じる前、遥の瞳に映った彼はまるで泣いているようだった。

重なる唇が微かに震えている。

震えているのが自分なのか相手なのか、遥には分からない。

ただ真っ暗な闇の中、最後に見た木吉の顔が浮かんでは胸が締め付けられていた。


「……悪い」


離れた隙に漏れる謝罪は、一体何の謝罪なのか。

しかし、遥が声を発する前に、再度全てを包み込むかの如く唇が重ねられ、真相は有耶無耶になってしまう。

啄むように何度も繰り返されるそれは、甘えているように酷く優しく、そして儚い。


「……っ」


自分より大きく逞しく、頼りになる彼の首へ腕を回す遥。

影はぴったりと重なった。




唇に愛情のキス


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