時折行われるプール練習の日。

プールサイドに仁王立ちしているカントクの指示の下、部員たちは死に物狂いで練習に励んでいた。

パーカー姿の遥は出番が少ないため、傍らで大人しく彼らを見守っている。

日差しが反射して輝いている水面が眩しい。

何回目かの笛の音の後、もう恒例となってしまった日向の声が響く。


「黒子寝んなぁ!!」


体力アップが大きな課題でもある黒子にとって、プール練のダメージは相当なものだ。

微笑混じりに歩みを進め、遥はプールサイドぎりぎりにしゃがみ込む。


「テツヤ大丈夫?」


例の如く一時的にへばっているだけだろうが、念のために遥は訊ねた。


「……はい」


草臥れた様子の黒子は返事を返すも、同級生に揉みくちゃにされ、先輩陣にツッコまれ、物理的にも精神的にもダメージが加算される。

誰にもフォローされない黒子も、"黒子ー!"と言いながら彼を取り囲む仲間たちも息ピッタリ、仲睦まじげだ。


「皆凄い元気そうだね」

「「…………!!」」


何気ない遥の感想に、一同が揃って固まる。

嬉しそうな笑顔を見せるマネージャーの背後に、笑顔だがしかし般若を背負っているカントクが立っていた。


「3倍ね」


語尾にハートマークをつけて微笑んだカントクの計らいで、この瞬間から練習はキツさ倍増辛さ倍増。

案の定、黒子は早々に離脱となってしまった。


「テツヤ大丈夫…?じゃないよね…?」


更衣室横のベンチでドリンク片手に項垂れている彼の隣に腰掛けながら、遥は先程と同じように訊ねる。


「……………………………はい」


たっぷりと間を空けて返ってきた返事は、大丈夫の肯定なのか、大丈夫ではないの肯定なのか。

遥はとりあえず、タオルで水滴を拭っていくことにした。

ずっとプールサイドにいた彼女はともかく、魔のプールから出たばかりの黒子は髪も体も濡れている。

喋る気力も残っていないのか、顔を上げることもなく、黒子は暫しされるがままだった。


「少し休んで戻れそう?」

「……………………………戻ります」


例え辛くても、このまま大人しくしておくという選択肢はないらしい。

限界を突破している今、事故や怪我などに繋がらないよう休む必要はあるが。


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