「遥センパイ、見てくれたっスかさっきの!」

「ごめん。見てなかったけど、涼太が最後に決めたんだよね?」

「えーっ、見てくれてなかったんスかぁ!?」


体育館の一角で、1人黙々と雑務をこなしていた遥の元へと駆け寄った黄瀬は、わざとらしく肩を落とすと泣き真似をしてみせた。

シャッフルゲームと称して、学年関係なく、ポジションだけは大まかに平等になるようにくじで部員を分け、総当たりでゲームをするという練習試合中、黄瀬は予想通り飛び抜けた才能を発揮して、ブザービーターを派手なダンクで決めてみせたのである。

その結果、体育館に集まった黄瀬目当ての女子生徒からは黄色い悲鳴が上がり、男子生徒からは自嘲気味な皮肉や羨望の声が上がり、試合を見ていた主将からは無駄な動きが多いと叱咤が飛んでいた。

マネージャーとして別の業務を行っていた遥は、それらの声で状況を把握しただけで、実際にプレーを見ていたわけではないのだ。

勿論普段は練習だろうと部員1人1人を見ている遥ではあるが、今は部員同士でスコアなどもつけているし、与えられた別業務で手一杯だったのである。


「オレの話も聞かねーでマネージャーに甘えてんじゃねーよ!」

「いでっ!」


背後から遠慮のない飛び蹴りを食らった黄瀬が、前のめりにすっ飛ぶ。

ぱちくりと目を瞬かせた遥を横目に、主将・笠松は追加でルーキーを軽く締め上げてから、大きく溜め息を吐いて振り返った。


「七瀬も、コイツを甘やかすんじゃねーよ」

「すみません、甘やかしてるつもりはないんですけど…」

「オレも遥ちゃんに甘やかされたい…って言いたいんだろ?笠松は」

「!?」


自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら現れた森山の隣で、小堀が呆れ顔で肩を竦めてみせる。

怒りからか何からか、わなわなと震えている笠松に気付いていないのか、森山はご機嫌な様子で続けた。


「分かる…分かるぞ笠松!可愛いもんな!癒しだもんな!まさにアイドル…違うな、オアシスだ!オレも遥ちゃんが褒めてくれるって言うなら、何本でもシュート決めれると思う。いや、決めてみせる!ってことで遥ちゃん、オレに…」

「長ーし気持ち悪ーんだよ!」

「落ち着けって笠松。お前次試合だろ?」


黄瀬に続き、今度は森山が吹っ飛ぶ。

仲間達へのツッコミに忙しい笠松を宥めるのは小堀に任せ、その背を見守る遥はどうしたものかと首を捻った。

いつも通り和やかな仲の良さが見える光景で、寧ろ中学時代ああであった黄瀬が楽しそうなのは微笑ましくもあるが、今は部活中なのだ。

揃いも揃ってレギュラー陣がマネージャーの周りで可愛らしい痴話喧嘩とは、遠くで呆れを通り越している他の部員達に示しがつかないのではないだろうか。


「主将ッ!次オ(レ)(ら)の試合っすよ!主将いないと始まんないっすか(ら)!」


痺れを切らした監督に命じられたらしい早川が、次の対戦相手である笠松を呼びにきたようだ。

相変わらず何を言っているか聞き取りにくい早口で主将を促した後、思い出したかのようにくるりと踵を返した彼は遥へと向き直った。


「七瀬、いつもサポートあ(り)がとな!さっき監督も褒めてたけど、オ(レ)(ら)もマジで感謝してっか(ら)!」

「ありがとう、早川くん。今日アップから調子良さそうだったし、試合楽しみにしてるね」

「おう、任せ(ろ)!」


ニコニコキラキラと会話を弾ませる同級生達の前で、今度は先輩後輩4人が面白い程固まってしまう。

同い年だから垣根が低いのか、早川がサラリと遥を褒めれば、遥も親しげに返し、端から見れば何ともいいコンビではないか。

固まってしまった4人からすれば、選手とマネージャーの理想の姿かつ憧れのシチュエーションを実演されてしまったわけで、もはや練習どころではなくなった他の部員達からも、言葉に出来ない諦めにも似たオーラが放たれている。

喧しい程元気有り余る早川と、静かに寄り添うタイプの遥。

正反対の2人だからこそ、かっちり嵌まったのかもしれないが、黄瀬はズルいと喚きだし、森山は悟りを開きだし、笠松は更に怒りだし、小堀は片っ端から宥めだし、もう体育館内はてんやわんやである。


「どうしたものか…」


キセキの手綱を握ることが出来る存在だからと遥を引き抜いた張本人である監督は、想像を超えるその効果に1人頭を抱えていた。

今日も海常高校バスケ部は平和のようだ。




海常高校の場合

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