「何しに来たんだよオマエ」
盛大すぎる舌打ちと鋭すぎる眼光を受けたために、蛇に睨まれた蛙の如く縮こまった遥ではあったが、すぐさま鞄から取り出した携帯電話を、不機嫌オーラ全開でベッド上で上半身を起こした彼───花宮へと突き出した。
苛立ちと獰猛さが垣間見える双眸が、ディスプレイへ向けられる。
その瞬間、彼の眉間の皺が増えたことに気付いた遥は"だって"と理由を話し始めた。
「原くんから頼まれたんだもん」
「………殺す…ッ」
物騒な発言の直後、ちょうどタイミングが悪かったのか花宮は激しく咳き込んだ。
胸の奥底から吐き出されているのだろう、何度も繰り返されるそれは見るからに苦痛を伴うもので、遥は慌てて彼の背に手を添えた。
「大丈夫?飲み物持ってくるね」
「…いい。動くな」
暫くして落ち着いた花宮は短く言うと、彼女の傍らにあった携帯電話を有無を言わさず掴み上げる。
最初の一瞬こそ考えるような素振りを見せたものの、次の瞬間には他人のものとは思えないスピードでそれを操作し始めた。
「え、花宮くん…!?」
「なんでオマエがアイツとメールしてるんだよ。"バスケをしてる人はみんな友達"とでも言う気か」
その言葉と共に、無造作に携帯電話が投げ返される。
とは言っても短い距離だったため、遥がそれを取り落とすことはなかった。
「今何したの?」
「別に、ちょっと触っただけだ。変に利用されたら後々困るからな」
その"ちょっと"が、花宮と遥でどれほど差が出るものなのか。
案の定、メール画面を開いて原からの受信メール───花宮が風邪をひいたということの揶揄と看病してやってほしいという内容が記されたそれは綺麗さっぱり、跡形もなく消滅してしまっていた。
嫌な予感が過ぎり続いて確認してみれば、遥が原に返信した送信メールもそれは綺麗に消え去っているようである。
「メール消えてるし…」
「アイツのしか消してねーよ」
間髪入れずそう返すと、花宮は片手で顔半分を覆い歯を噛み締めた。
彼のチームメイトから風邪と聞いていたため分かってはいたが、やはり体調はすぐれないらしい。
遥が声をかける前に、花宮は悔しげに舌打ちをすると体を倒す。
壁の方を向いて横になってしまったため、遥からは彼の表情が見えなくなってしまった。
「…七瀬遥」
「何?」
「さっさと帰った方が賢明だってことぐらい、わかるだろ」
「うん。でもせっかく来たし、もう少しいてもいい?」
「ほんとバカだなオマエ。……勝手にしろ」
あのとき消えたのがメールだけではないことに遥が気付くまで、後10分。
花宮を看病
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