「ん」

「……ん?」


寝間着姿に大きなマスク、そこから覗く見るからに体調の悪そうな顔───そんな遥が出迎えることとなったのは、見るからに美味しそうなフルーツだった。

短い言葉と共に差し出されたバスケットを手に、遥はきょとんと一時停止。

何故これを?

また、何故これを他校の先輩である彼が?

インターホンが鳴ったからと開いた自宅の玄関の先にこんなものが待っていようとは、一体誰が想像出来ただろうか。


「果物嫌いだったか」


ドラマなどでしか見たことのないような立派なフルーツバスケットから目を離し、遥は慌てて首を振った。

一瞬ぐらりと視界がブレたが、自業自得だと何とか持ちこたえる。


「いえ、大好きです!…けど」


逆接の先の疑問が投げ掛けられることはなかった。

大きなフルーツバスケットを押しつけるように手渡した人物───遥にとって他校の先輩である彼・宮地は小さく舌打ちすると、遥の腕を掴み家の中へと押し返す。


「つか律儀に起きてくんなよ」


苛立った様子で腕を引かれ背を押され、遥は足をもたつかせながらその場にしゃがみ込んでしまった。


「…部屋何処だ」


再度舌打ちが耳に入るが、続いて飛び込んできたのは優しい気遣いの言葉である。

宮地に支えられる形でフルーツバスケットと共に自室へ戻ることとなった遥は、有無を言わさぬ手際良さでベッドに押し込まれてしまった。

肩までしっかり隙間なく、温かな掛け布団に覆われる。

そこから覗く視界に入るのは、盛り沢山の果物たちと柔らかな髪色を揺らす宮地の後ろ姿。


「…宮地さん」

「あ?」

「ありがとうございます」

「…これ木村ん家のだから」


"これ"───フルーツバスケットを顎で示しながら宮地は言った。

風邪さえひいていなければ、きっと瑞々しい香りが堪能出来たのだろうが、体調不良である遥はそれを視覚でしか楽しむことが出来ない。

何故木村家の果物を丁寧に包装までして宮地が持ってきたのかと疑問は残るが、なんだかんだ仲のいい秀徳バスケ部のことだ、気にすることはないだろう。


「木村さんは…」

「家の手伝い」

「…ふふ」


果物や野菜片手にせっせと働く木村の姿を脳裏に思い浮かべ、遥は思わず笑いを漏らした。


「何笑ってんだよ。さっさと寝て治せ」


いつもの口調ではあるが、宮地の口角は上がっている。

そんな自分の姿を見せないようにか、遥の視界は大きな掌で覆われた。


「ふふふ」

「寝ろっつってんだろ」

「いたっ」




宮地が看病

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