普段より幾分温かい骨張った大きな手が、女性らしく丸みを帯びた小さな手を祈るように包み込んでいる。

身動きが取れない遥は、戸惑いを露に目の前の男性を仰ぎ見た。

目元を緩め、柔らかい眼差しを遥に返す男性───森山は先程から同じ言葉しか繰り返さない。

ちなみに、もうかれこれ10分はこの体勢である。


「七瀬さんがいてくれるなら、オレ頑張れるよ…!」

「頑張らなくていーから大人しく寝てろっつってんだろーが!」

「わかってるって、笠松。七瀬さんは誠凛のマネージャーだからな」

「そこじゃねぇよ!」


ツッコミ疲れた様子の笠松は、片手で頭を抱えると大きな溜め息を吐いた。

そんな他校の主将に同情を含んだ視線を向けた遥ではあったが、仲良さげなそのやり取りに思わず笑みを零す。

相変わらず手は森山に拘束されているため動けないが、彼の体調回復の役に立てるのなら、これはこれでもういいかもしれないとも思い始めていた。

後輩から話を聞いていた通り、海常メンバーはそれはもう個性豊かで賑やかである。

もうすぐ残りのレギュラー陣も森山の見舞いに来るはずだし、風邪が吹き飛ぶぐらいの騒がしさになるのだろう。


「体を起こしておくのも辛いと思いますし、横になって下さい」


遥に促されると、額にうっすら汗を浮かべている森山は、暫し迷うような素振りを見せてから頷いた。

しかしすぐに体を倒さずに、手中の遥の手を強く握り直す。


「やっぱいいな…」


噛み締めるように呟くと、森山は熱っぽい視線で遥を見た。

"黙っていればイケメン"と称される彼の表情が引き締まったそのとき───


「………七瀬さん」

「はい」

「ゴメン、吐きそう……」


顔色は一転、装着していたマスクごと口元を押さえた森山が項垂れる。

遥と笠松が固まった。


「ちょ、遥センパイに看病してもらうとかズルいっスよ、森山センパイ!」

「待って涼太、今それどころじゃ───」

「早まるな森山!!!」

「は?何、ゴミ箱!?トイレ!?」

「意味わかんねーんすけど、何が起きて(る)んすか!?」


タイミングがいいのか悪いのか、遅れてきた黄瀬たちが合流したため室内はもうぐちゃぐちゃ、てんやわんやである。

苦しげに呻く病人の前で、そわそわざわざわと慌てふためく海常バスケ部レギュラー陣+他校のマネージャー。


「森山さん、我慢!我慢でお願いします!」


必死な様子の遥に背を摩られながら、森山は仲間たちの声をBGMに耐え続けていたのだった。




森山を看病

  return  

[1/1]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -