『我が儘だって分かってるけど、飯作りにきてくれないか?』


───七瀬遥は、風邪を引いて弱っている友人から、深夜に送られてきたこのメールを無視出来る人物ではない。

と言うわけで、すっかり熱も下がって、残すは体の気だるさだけらしい彼に何を作ればいいだろうかと一晩思案した遥は翌日、勝手知ったる何とやらで友人宅の台所を占拠していた。

彼女は何度も友人宅───木吉宅に訪れたことがあるため、何処に何が置いているかを理解しているし、冷蔵庫の中身を自由に使うことも出来るのである。

彼の祖父母は遥のことを良く知っているだけでなく、本当の孫のように可愛がってくれているのだ。

だからこそ安心して遥に全てを任せ、用事を済ませに出掛けていったのであろう。

そう言えば、自分の祖父母も今日は絶対に町内老人会に参加しなければならないとボヤいていたような───苦笑気味に口端を上げながら、遥は1人黙々と腕を動かした。

前もって母親にしっかりレシピを教えてもらっているから失敗はしないだろうが、やはり友人の期待に応えたいという思いは強い。

たかが卵雑炊、されど卵雑炊。

料理は苦手な方ではないと言っても、人の口に入るものを作るときは毎回緊張してしまう。


「……次は…」


出来れば、木吉が寝ているという今の間に作ってしまいたいと、遥は忙しなく手を動かした。

と、そのとき。


「……遥?」


遥の背後の扉と床が軋むと同時に、静かなトーンで響く声。

振り返って見れば、彼女の予想通り、髪を撫でつけながら佇む大きな姿があった。

未だ眠たいのかそれとも他に理由があるのか、優しい色をした双眸はぼんやりと虚ろ気味なようだ。


「おはよう鉄平。起きたんだね。もう風邪は大丈夫?まだダルい感じ?」

「ああ…」


心此処にあらずといった様子の木吉は短く返す。

曖昧な返事ではあるが、熱が引いても体がダルかったり、熱っぽいような感覚が残ったりするものだから、今の彼もおそらくまだその状態なのだろう。


「あ、ご飯もう少し待ってね」


そう言ってから遥は台所へ向き直った。

起きたのなら空腹かもしれないし、例え空腹でなくても薬を飲むには食事が必要である。


「お粥じゃなくて卵雑炊にしたんだけど、まだ出来てなくて」


目の前に並ぶのは、細かく刻んだ野菜類に米、1人用の土鍋───後はこれを一煮立ちさせて味を整え、溶き卵を流し入れれば完成だ。


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