(帝光)


今日も今日とて、帝光中の体育館ではバスケ部による激しい練習が行われていた。

気合いの入った叫び声やバッシュのスキール音、弧を描いたボールがネットを潜る音など様々な音が響き渡っている。

その脇でマネージャーとしての業務を黙々とこなしていた遥だったが、ふと視線を向けた先にいた人物に違和感を覚え、作業していた手を止めた。

体育館の隅で何やら相談をしているらしい後輩赤司と、同級生の姿。

それは部活中よく見かける光景ではあったが、話し込んでいる後輩の様子がどことなく、いつもと違うように思われたのだ。

どこがどう違うのかと訊かれても答えられないような、言うなれば女のカンのような違和感に、遥は密かに首を傾げる。

と、話を終えたらしい赤司が此方へ向かってきた。


「何かありましたか」

「え?」

「ずっと此方を見ていたでしょう」


遥の行動が視界に入っていたのか、赤司は名前と同じ赤い双眸を瞬かせて言う。

遥は咄嗟に、己の中に生まれた疑問を言い淀んだ。

がしかし、次の瞬間、赤司相手に言い淀んでも意味はないだろうと思い直し口を開く。

彼相手に隠し事など出来るはずがない。


「いつもと雰囲気違うなって思っただけだよ」

「…雰囲気?」


赤司の眉が顰められる。


「なんとなくだけど…」

「…………」


上手く説明出来ず曖昧な言葉を返した遥を見下ろし、赤司は溜め息を吐いた。

そのとき、遥は違和感の正体を察することとなる。


「体調悪いの?」


赤い瞳は返事をしなかった。

───が、沈黙は肯定、とはよく言ったものである。


「ちょっとごめんね」


断りを入れてから、遥は手を伸ばした。

微動だにしない赤司の額に、そっと掌を押し当てる。

じわりと染み渡るように伝わってくる熱は、所謂常温と呼ばれるものよりは高いように思われた。


「熱っぽい?」


ゆっくり瞬いた赤司はやはり沈黙のままだ。

とりあえず伸ばした手は引っ込めた遥だったが、うんともすんとも言わない後輩に首を捻ることとなる。

さて、どうしたものか。


「……七瀬先輩の手が冷たいんじゃないですか」


心地好い響きが鼓膜を揺らすと同時に、遥は腕を掬い取られた。


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