いつもならこの時間、部活を終えた仲間たちとマジバに寄って帰るか否かで盛り上がっている頃だ───遥は視界に入る横向きな壁掛け時計をぼんやり眺めながら、そう思った。

寝返りを打ち直し、見慣れた自室を意味もなく見つめると、マスク内に熱い呼気を吐き出す。

体内にこもる熱は未だ平均より高いようで、喉の疼きも残ってはいるものの、朝よりは幾分余裕があるようだった。

明日はまだ無理かもしれないが、今晩ぐっすり眠れば明後日から登校出来るかもしれない。

起きていてもいいことはないだろうし、もう一度眠ってしまおう───


「遥ー」


とそのとき、自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした遥は体を起こした。

重い頭が一瞬平衡感覚を失わせ、一呼吸置いたと同時に自室の扉が開かれる。


「起きて大丈夫なのか?」


優しく包み込むように届いた声は、聞き慣れた友人のものだった。


「鉄平…」


部活を終えて直接此処まで来たとは思うのだが、それにしても入口に佇む制服姿の彼の手に荷物は多い。


「ああ、色々預かってきたんだ。大人数で押し掛けるのはマズイってことになって」


そう言いながら荷物を部屋の脇に下ろすと、木吉は大きな手を遥の額へと伸ばす。

真剣な色を見せる彼の瞳は、遥の心中を見透かさんばかりに真っ直ぐだ。


「まだ高いな」

「朝よりましだし、気分は大分楽だよ」

「そうか」


柔らかい笑みを見せると、木吉はちょっとした山になっている手荷物を漁り始めた。

付箋が貼られたプリントにシンプルな柄の封筒、パックの野菜ジュース、お菓子の詰め合わせらしきもの、小さな花束、そして───


「ネギ?」


タッパーに入ったネギの断片。

統一性のないものの数々に、遥は思わず目を丸くする。


「ばあちゃんに用意してもらったんだ」


そう言った木吉は、タッパーから取り出したネギをタオルへ包んでいった。

よく見ればそのタオルは遥のもので、部屋に来るまでに母親に相談したのであろうと容易に想像出来る。

中学時代からの付き合いなため、木吉も遥も互いの家へ入るのは顔パス状態なぐらいなのだ。


「これ巻いて…あとは生姜湯だな」


所謂"おばあちゃんの知恵袋"曰く、喉の風邪の場合には首にネギを巻くといいと言う。

勿論いくつかパターンはあるが、発熱時の対処法として挙げられるものの1つには"生姜湯"があるのだ。


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