(帝光)
「……遥ちん」
主将により休憩が言い渡され、体育館で激しい練習を行っていた部員たちが各々動き始めたとき、大きな後輩は真っ先に先輩マネージャーへ歩み寄った。
名を呼ばれ、タオル片手に振り返った遥の前には、先程まで真面目に練習に打ち込んでいた紫原の姿。
彼はいつもだるそうではあるが、今日はいつにも増して覇気がないように見える。
爪先立ちで腕も目一杯伸ばし、体全体を使って後輩の顔に浮かぶ汗を拭ってやりながら、遥は訊ねた。
「どうしたの?ドリンクなら向こうに…」
「疲れた」
遥の声を遮り被せられたのはありきたりな言葉ではあったが、違和感を覚えた彼女は思わず手を止める。
紫原は、面倒だの何だの言いながらも、練習自体は真面目にこなす部員だ。
だから疲れるのは当たり前のことである。
しかしそれにしても───
「紫原くん、もしかして体調悪い?」
彼の体は熱すぎるようだし、どこか様子がおかしい。
遥の問い掛けに、紫原はゆっくりと首を横へ倒した。
「…頭ガンガンする」
嫌な兆候ではないだろうか。
遥が両手を引いて座るよう促せば、紫原は大人しくその場に腰を下ろした。
「寒くはない?」
「暑い」
近くなった紫の双眸が、ぼんやりと先輩を見下ろしている。
はっきり判断は出来ないが、体調不良なのは間違いない。
おそらく発熱もしているはずだ。
遥は傍らに用意してあったドリンクボトルを差し出した。
「一気に飲んじゃ駄目だよ」
紫原用のドリンクは彼の荷物がある方に用意してあり、こっちのものは2軍部員たちに配る分なのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
とりあえず、まずは水分補給だ。
言われた通り少しずつ、だがかなりの量が彼の喉奥へと消えていく。
「ハー…」
満足したらしい紫原から溜め息が零れた。
先程より顔色はいいように見えるが、眉の間には濃い筋が刻まれている。
長い髪を払い、遥の手が彼の額に触れた。
「保健室行こっか」
紫原はゆったりと首を左右に振った。
「いーよ、別に。メンドイし」
伸ばされたままの遥の腕を掴んで遠ざけると、紫原は再度溜め息を吐く。
頭痛が酷いのか、その表情は険しい。
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