重い瞼を無理矢理持ち上げると、視界に入るのは見慣れた天井。
慣れ親しんだ自室のそれを眺めながら、ベッドに横たわる遥は、頭や関節に痛みと熱を感じ始めていた。
瞼だけでなく体全体が重くなってくる。
温かい布団の中に埋まっていた手だけを動かして、枕元に置きっぱなしであった携帯を引き寄せれば、そこに表示されるのは予想通りの日付だった。
学校が休みで尚且つ、部活も休みな日曜日。
しかしその完全オフな日曜日も、もう半分以上過ぎ去ってしまっていた。
力無く携帯を手放すと、夢現の微睡みが脳内を白く染めていく。
「……七瀬先輩」
そのとき、歪む視界の先に赤がちらついた。
鼓膜を揺らす、冷たさを感じさせるぐらいに透き通った声音。
「───……」
自然と浮かんだ名前を口にする途中で、遥の意識は黒に飲み込まれた。
*
目が覚めた遥の視界に入ったのは、真っ白な天井だった。
授業でも部活でも世話になっている、広々とした帝光中保健室の独特のにおいが鼻を突く。
寒いような暑いようなよく分からない感覚と、体全体にのし掛かるような重さを感じながら、遥は意識を夢現の間に彷徨わせていた。
何故自分が保健室で寝ているのか───思い出せない。
「……七瀬先輩」
芯のある声が落とされると同時に、冷たい骨張った手が降ってくる。
優しく髪を掻き分けた指先から順に押し当てられた掌が、額から熱を奪っていった。
視界に映り込む赤の方へ顔を向けると、遥は彼の名を口にする。
「赤司くん……」
向けられた綺麗な赤い双眸が、遥の胸中を読み解いたらしい。
「部活中に倒れたんですよ」
「………?」
彼の声は確かに届いたが、鈍く脈打つ頭痛と靄が思考を遮る。
脳内をクレヨンで塗りつぶされていくような感覚に、遥は思わず眉を顰めた。
「熱が高い。大人しく寝ていて下さい」
理解出来ていないことを察したらしい赤司は手短に言うと、額に置いていた手を離す。
高すぎる熱を奪ってくれていた、冷たくも頼もしい彼の手が去ってしまう前に───
「……?」
遥は軋む体を動かした。
不思議そうな色を表情に滲ませる赤司。
だが彼が、自身のものより幾分小さく頼りないその手を振り払うことはなかった。
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