「………そうね」
数秒そうした後、意を決した様子で遥へ歩み寄ると、彼女の前髪を優しく掻き分けるリコ。
行動の意図が分からず、遥は近くにある友人の特異な瞳をぼんやりと眺めた。
「リコ?」
「他の皆はいらないみたいだから、遥だけよ」
そうして、動向に目を奪われている部員たちの目の前で、リコは遥の額へと唇を寄せた。
「「〜〜〜〜〜〜!!?」」
ほんの一瞬の目を瞠る出来事に、周りから声にならない悲鳴が上がる中、満足気にカントクは言い切る。
「どうだ!」
「おお…」
された側の遥も、ご満悦の様子で感嘆の声を漏らした。
見せ付けられた部員たち───特に同学年の2年生は、各々何とも言えない表情をしている。
胸中にも、言い表せそうにない思いが混ざり合うことなく蠢いていた。
「ありがと、リコ」
周りがそんなことになっているとはつゆ知らず、お返しと言わんばかりに、遥もリコの額へ口付ける。
数秒触れた唇が小さなリップノイズを立てて離れると、2人は照れたように顔を見合わせ笑い合った。
「何か恥ずかしいね」
「でもまあ…ご褒美だし」
「ね」
「ね」
手を取り合い仲良さげな女性陣と、それを傍観している男性陣たちの温度差が更に明確なものとなる。
本人たちに全くその気はないが、何処か背徳感が漂うような可愛らしい友情を見せつけられ、微笑ましいやら羨ましいやら、様々な感情が部員たちを支配していった。
そんな彼らの心境を悟ってか、カントクは部員たちにしたり顔を向ける。
"羨ましいだろう"と聞こえてこないのが不思議なぐらい、とびきりの笑顔だ。
彼女の向かいで未だご機嫌な遥も、別の意味でとびきりの笑顔である。
その両者の笑顔を視界に思わず喉を鳴らし、いろんな意味で正直羨ましいです───という思いを込めて頷きそうになっている部員たち。
「あ、もしかしてリコパパに怒られるかな?"娘に手ェ出すな!"って」
「大丈夫よ!パパは遥のことお気に入りだから」
遥が繋いだ手を揺らしながら問うと、リコはすぐさま視線を戻して答えた。
娘を思うあまり異性に厳しいリコの父も、自身のお気に入りでもある同性の友人に怒りを見せることはないだろう。
ただし、今の部員たちとはまた違った意味で羨望を表に出すかもしれないが。
「じゃ、さっさと片付けて帰りましょうか」
「そうだね。お腹空いちゃった」
「久しぶりにマジバ寄って帰る?」
「え、いいの?」
これからの予定を話し合う女性陣を視界の片隅に、蟠りを上手く消化出来ていない部員たちは、涙を呑んで重い足を動かし始めた。
((どうしてこうなった…))
Freundschaft auf die offne Stirn
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