(完全友情ものですが、題材的に苦手な方注意/原作正邦戦時のご褒美ネタ)


「あ」


そろそろいい頃合いなため、個人練に勤しんでいた部員たちが帰り支度を始めたときだ。

マネージャー業務を行っていた遥が、突如短く声を上げた。

何事かと、部員たちの視線は遥に集まる。


「私たち、北の王者の正邦に勝ったよね?」

「ああ…」


確かめるように遥が訊ねれば、一番近くにいた日向は肯定し頷いた。

間違いなく昨年のリベンジは果たしたと、他の部員たちも同意を示し頷く。

その姿を見て、遥はカントクへと振り返った。


「リコ、チューは?」

「「!!!??」」


カントクを含む、ほぼ全部員が一斉に噴き出す。

その後のいざこざにより有耶無耶と化していた約束が、目眩く速さで脳裏を過ぎった。

正邦戦前、もし試合に勝ったら頬にキスをするとカントクが言い放っていたのは、皆記憶に新しい。


「言ったし実際勝ったけど…皆いらないみたいだし、もういいんじゃない?」


当事者であるリコの言葉に、2年陣がぎこちない動きで首を縦に振る。

どうやら、カントクの有り難い気遣いは胸に仕舞っておきたいらしい。

しかしマネージャーとして常に部員たちの傍にいた遥は、納得がいかない様子だ。


「あのリコのチューだよ?皆いらないの?」

「「……………」」


部員たち───主に2年生───の頬を、尋常じゃない量の汗が伝い落ちていく。

非常に答えにくい。


「勿体ない…」


遥は不思議そうに日向を見た。

目が合ってしまい、僅かに肩を跳ねさせる主将。

あのときは部員たちに不発な空回りの気遣いとなってしまったのだが、遥からすれば、雪辱を果たした部員たちへのこれ以上ないご褒美だったのである。


「遥が一番喜んでたわよね、そう言えば」

「うん。だってリコからのチューだよ?」


当たり前だと言わんばかりの遥を前に、カントクは顎に手を当てて悩み始めた。


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