「だアホ」

「いたっ」


日向は遥の額にデコピンを食らわせた。

避ける間もなく与えられた痛みに顔を顰める遥。

しかし容赦なく、日向は更にデコピンをお見舞いした。


「痛い…」


物理的な痛みのせいで、遥の瞳に涙が浮かぶ。


「コッチが勝手に心配してるっつーだけだ。あと怒ってねーよ。そんなに」

「……それ怒ってるよね」

「怒ってねー」


八つ当たりのように雑に返事を返すと、日向は腕を遥の顔の高さまで引き上げた。

更にもう一発デコピン追加か。

遥は咄嗟に目を瞑り、顔を俯かせる。

このとき彼女が手で顔を庇わなかったことは、日向にとって好都合だった。

遥の眼前にあった腕は、彼女の肩へ。

体を震わせ顔を上げようとした遥だったが、身を乗り出した日向の方が早かった。


「え……?」


前髪が揺れる感覚の後、額に触れる温かい何か。

遥が驚きのため瞬くと、浮かんでいた涙が散っていく。

僅かに温もりを残したまま離れていった日向の表情は、時たま見せる厳しい主将のものだった。


「赤くなってんぞ」

「順ちゃんがデコピンしたからでしょ…!?」


状況把握がままならないままツッコむも、慌てて額を押さえる遥の脳内は"?"で埋め尽くされている。


「それに何でクラッチ入ってるの…?」

「こーでもしねーとやってらんねーよコッチも」

「?」


ますます増えていく疑問符。


「とりあえず大人しくしてろ。ムチャはすんな。何かあったらオレに言え」

「う、うん…?」


最初からついていけていない遥を置き去りに、スイッチの入った日向は彼女の腕を掴んだ。

額から引き離されたその腕は、抵抗出来ぬように絡め取られる。


「ホントに分かってんのか?」

「分かってる…ます」

「オマエは火神か」


本人曰く怒っていないらしい説教を終えて満足したのか、日向は立ち上がった。

それに次いで、遥も立ち上がる。


「何か順ちゃん……」

「あ?」


練習に戻ろうと扉に手をかけていた日向が、顔だけで振り返った。

いつもの優しい主将の顔である。


「…ううん、何でもない」


その日向の背中に飛びつくように、遥も部室を後にした。




Freundschaft auf die offne Stirn


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