誠凛バスケ部主将・日向順平にとって、マネージャーの七瀬遥は最も目が離せない部員だった。
けして遥の素行が悪いからではない。
むしろ彼女は誰よりも真面目にバスケと向き合い、日々業務をこなしている。
だが遥も個性豊かな部員の1人であるため、たまにとんでもない言動を披露したり、時には頑張りすぎたりと、とにかく主将が別の意味で最も頭を抱える人物なのだ。
今日も今日とて日向の目の前で仕出かした遥は、皆が部活に励む中、1人説教されていた。
「七瀬、オマエがマネージャーとして、オレらを全力でサポートしようとしてくれてるのは分かってる」
部室に胡座をかいた日向と向かい合う形で正座している遥は、すっかり畏縮してしまっている。
膝の上に置かれた両手は握りしめられており、俯き加減なせいで日向から確認は出来ないが、その表情は暗い。
「オレらが練習に集中出来るように、何も言わず1人で頑張ってくれてたのは分かってる。でもな、それで怪我されたら意味ないから」
いつになく真剣な面持ちで語りかける日向。
遥は俯いたまま小さく声を発した。
「………ごめんなさい」
「頼むからムチャはすんな。マジ頼むから」
事の発端は5分程前の出来事だ。
部員の練習の邪魔にならないようにマネージャー業務に励んでいた遥は、両手一杯の荷物を1人で運んでいた。
それは誰が見ても一目で分かる程、彼女の許容範囲外の分量だったのである。
案の定部員たちの視界の片隅で盛大に転び、ちょっとした惨事となった。
遥からすれば、マネージャーである自分の仕事だし、練習中の部員の力を借りるのも申し訳ないと判断しての行動だったのだが、彼らからしてみればそういう問題でもない。
特に、日頃から様々な意味で彼女を気にかけていた日向にとっては大問題なため、現在進行形でこっぴどく叱られることとなったわけである。
「今日のは軽い打撲ですんだけど…何かあってからじゃ遅ーし。マネージャーってだけじゃなくて、七瀬がいねーと色々困るから……今度からは声かけてくれ」
遥は頷いた。
「順ちゃんに心配かけてばっかで、怒られてばっかだよね、私…」
漸く顔を上げた遥は、今にも泣き出しそうである。
日向の思いやりからの説教に、すっかりヘコんでしまったようだ。
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