遥の顔の前辺りの高さで、毎日ボールを扱っている骨張った逞しい手と、毎日補佐業務をこなす柔らかな手が合わさった。

重なる掌は似たような形をしているのに、その大きさやつくりは全く異なっている。

そして赤司が言う通り、遥の手の方が冷たかった。

───遥から言わせれば、赤司の体温が高いわけだが。


「…やっぱり熱ありそうだね」


軽く曲げられた指先が互い違いに絡み合う。

重なる手に視線を落とした赤司は静かに言った。


「病は気から」

「え?」

「───と言うでしょう」


さすがにこの言葉を知らない者はいないだろうが、また別の引っ掛かりを感じた遥は眉根を寄せる。


「それって、やっぱり体調悪いってことだよね?」


赤司自身、体調不良なのは分かっているが"病は気から"ということで乗り切ろうとしているのだろう。

気丈に振る舞い、いつも通り真っ直ぐ佇む彼は僅かに口角を上げると、遥の横をすり抜けていった。

何事もなかったかのように行ってしまう後輩の背を追い、遥も慌てて振り返る。


「そんなに心配なら見ていればいい」


足を止め、前を向いたまま告げられたのは、淡々とした許可。


「もし何かあれば貴女が気付くだろうし、そうなる前に対処するだろう」

「…うん、そうだね。今日は赤司くん専属ぐらいの気でいるよ」


その返事で満足したのか、赤司は再度歩み始めた。

急ぎ足で駆け寄った遥は、彼の数歩後ろに控える。


「この後はどうするの?この間話にも出たし、もう少し基礎練やる?」

「3軍は。こっちは5対5にします。今日の調子だと、その方が効率がいい」


優れた観察眼が導く答えに、遥は素直に頷いた。

ある程度行き来は出来るとしても、3軍に関しては後輩マネージャーに任すことになりそうだ。

ゲームをするとなると少々忙しくなりそうだが、だからこそやりがいもある。


「赤司くんも出るんだよね?」


それに、今日は特定の1人をいつも以上に集中して見なければならないのだ。

様々な意味で油断してはいられない。


「分かってると思うけど、無理は駄目だよ」


遥の声が届いているのかいないのか───


「……必要がない」


小さく呟いてから足を止めた赤司は、練習に勤しむ部員たちに向かい指示を飛ばした。


「───集合」




END


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