「ソ──エイ!」

「オウ」

「エイ」


I・H都予選最終日。

広々としたコートでは、各校の選手たちがそれぞれアップを行っていた。

カントクの隣に佇み、仲間たちを眺める遥の双眸は右へ左へと忙しい。

彼女が見る限り、レギュラーメンバーの調子は悪くはなさそうだ。

風邪や怪我もないはず。

闘志も十分。

しいて言うなら、準決勝の相手である正邦を飛び越え、決勝で当たるであろう秀徳の緑間にガンを飛ばしている火神が少々心配、というところだろう。

目の前の王者を倒さなければ、そちらの王者と戦うことはないのだ。


「けど正邦って思ったより普通っていうか…大きい人あんまいないんですね」


1年生が正邦に目をやりながら言った。


「まあ全国クラスにしては小柄かもね。一応一番大きいのが187cm、主将の岩村君ね」

「じゃ、水戸部先輩と同じくらい…?けっこー…太っっ!?と言うかごつい!!すげぇパワーありそう!」


正邦4番、岩村努。

脅威という程の高さではないかもしれないが、その体格の良さからセンターとしての腕前が窺える厚い主将である。


「あと司令塔の春日君…この3年2人がチームの柱ね」


5番の春日隆平は、どこか掴みどころのない飄々としたイメージを抱かせる人物だ。

技術も経験も名もある正邦の、3年司令塔・PGである。


「あー、君が火神君っしょ?うっわマジ髪赤ぇ〜!こぇえ〜!」


いつの間に近くに来たのか、瞳を無邪気に輝かせて火神に声をかけたのは、正邦1年レギュラーの津川智紀だった。


「あん?」

「主将──!こいつですよね。誠凛超弱いけど1人すごいの入ったって」


至ってマイペースに大声で自身の主将を呼ぶ坊主頭の彼に対する印象は、二重の意味で宜しくない。

素直なのと空気が読めないのとは別問題だ。

それにしても、アメリカ仕込みの火神の加入は他校からも注目されているらしい。


「おーおー、言ってくれるわねクソガキ…」


カントクの表情には怒りしか現れていない。

火神は主将・日向から溜め息と注意、津川は主将・岩村から拳骨と注意をもらったようだ。


「すまんな。コイツは空気読めないから、本音がすぐ出る」


岩村からのあからさまな挑発。


「謝んなくていっスよ。勝たせてもらうんで。去年と同じように見下してたら泣くっスよ」


日向も言われっぱなしではないが、王者の貫禄と余裕はさすがといったところだろう。


「それはない。…それに見下してなどいない。オマエらが弱かった。それだけだ」


そして岩村は津川の首根っこを掴み、去っていった。


「ちょっ…ええ〜、主将もハッキリ言ってないですか?」

「バカたれ。オレはオブラートに包んで喋らんだけだ」


───という会話をしながら。


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