日向の話も一区切りつき、今は偵察に行っているカントクと、I・Hトーナメント表のコピー待ちの時間である。

いつもなら遥が職員室まで一走りしているはずだが、カントク代理として仕切る側に立っていたため、近くにいた部員に頼んだのだ。


「GW明けたらすぐ予選かー。早っえーなー」

「あと3週間ぐらい?」


1年生達の何気ない会話が耳に入った遥は、思わず振り返った。

バスケ初心者やアメリカ帰りなど、日本の高校バスケ事情に詳しくない後輩は想像より多いようである。


「けど先輩達って去年決勝リーグまで行ったんだろ?」

「しかも今年は火神と黒子もいるし。1〜2回戦はまあ行けんじゃね?」


きちんと説明しなければいけないようだ、と遥が声をかけようとしたとき、


「だアホー。何言ってんだ」

「「ぁいてっ!!」」


1年生の後頭部に日向の拳骨が決まった。


「スイマセン…」

「一度負けたら終わりのトーナメントだぞ。1回戦でも決勝でも、気を抜いていい試合なんてねーよ」


真面目な表情で諭す日向の言う通り、I・Hはトーナメント───つまり勝ち抜き戦である。

一度負ければそこで即さよならなのだ。


「主将ー、予選トーナメント表コピーしてきましたー」

「サンキュー。じゃ、みんなに回して」

「あ、おかえり。ありがとう」


そのとき、遥の代わりにI・H予選のトーナメント表をコピーしに行っていた1年生が帰ってきた。

彼からプリントを受け取り学校名に目を通していた部員たちだったが、続けてプリントを手渡されると驚きの声を上げる。


「こーやって表になるとやっぱ多いなー……って、2枚目!?」

「A〜Dまで4ブロックある、各ブロックの頂点一校のみが決勝リーグ進出。さらにその決勝リーグで上位3チームに入って初めてインターハイ出場」


『全国大会都予選Aブロック』に、誠凛の名は記されていた。

ここから勝ち上がりブロックの頂点に辿り着くには、同地区の強豪も含め7校を倒さねばならないことになる。

そして出揃った強敵ばかりの各ブロック代表の上位3校まで勝ち進んで漸く、メインへの出場権を得るのだ。


「300校以上の出場校から選ばれるのはたった3校。1%の選ばれた高校生しか立てない夢の舞台。それが…インターハイ」


先は遠く長く高く、想像以上に険しい。


「………なんとなくは分かったけど、1つ間違ってるっスよ」


トーナメント表に目を落としていた火神が、顔を上げながら言った。


「選ばれるんじゃなくて勝ちとるんだろ」


受動ではなく能動。

自信満々と言うわけではなく、おそらく本当に前向き思考で勝ち取りにいくつもりなのだろう。

この頼もしい心意気は他の部員たちも見習うべきだと、遥は密かに瞳を細めた。


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