『キセキの世代』の1人、黄瀬涼太が加入した海常高校との練習試合も無事に終えた4月27日、月曜日の昼休み。
1年生は2年校舎に集合していた。
勿論その指示を出したのは、誠凛高校バスケ部のカントク。
今回の呼び出しの意味を知っている、遥を含む2年生も全員揃っている。
「ちょっとパン買ってきて」
カントクと主将のクラスである2─Cの前で、語尾にハートマークをつけて命じられたのは『お使い』だった。
「は?パン?」
呆れた様子で聞き返す1年生だが、これは当たり前の反応だろう。
「実は誠凛高校の売店では、毎月27日だけ数量限定で特別なパンが売られるんだ。それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される(という噂の)幻のパン、イベリコ豚カツサンドパン三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!2800円!!!」
「高っけぇ!!…し、やりすぎて逆に品がねえ!!」
遥の中学時代の後輩が聞けば飛びつきそうな話に、1年生は未だ呆れた様子で的確にツッコんだ。
確かに値段と名前を聞く限り豪華ではあるのだが、色々とやりすぎ感が否めない。
「海常にも勝ったし、練習も好調。ついでに幻のパンもゲットして弾みをつけるぞ!ってワケだ!」
カントクは、わざとらしく溜め息を吐いて説明を続ける。
「けど狙ってるのは私達だけじゃないわ。いつもよりちょっとだけ混むのよ」
事情を全て知っている遥は笑顔だが、同じく事情を全て知っているはずの日向の表情は、何か言いたげに引き攣っていた。
ちょっとだけ混む売店に、月に1度しか販売されない少々豪華な幻のパンを買いに行く───ただの『お使い』の内容としては、けして難しいものではない。
「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ」
火神の返事を聞き、会計の伊月は封筒を差し出した。
「ほい!」
「?」
その背後から、日向が付け加える。
「金はもちろん2年生が出す。ついでにみんなの昼メシも買ってきて。ただし失敗したら…」
先程とは打って変わって笑顔だが、頼もしい主将・日向が纏うのは真っ黒なオーラだ。
「釣りはいらねーよ。今後筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」
どうやらお昼の買い出し勝負所らしい。
言わずもがな、部員たちにとって筋トレとフットワーク3倍はただの地獄である。
「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。大丈夫、去年オレらも買えたし」
「伊月センパイ……」
「パン買うだけ…パン…パンダのエサはパ」
「「行ってきます」」
伊月のフォローとダジャレを華麗に無視し、1年生たちは『お使い』に繰り出した。
return →
[1/3]