帝光中学校バスケットボール部。

部員数は100を超え、全中3連覇を誇る超強豪校。

その輝かしい歴史の中でも特に『最強』と呼ばれ、無敗を誇った10年に1人の天才が5人同時にいた世代は、『キセキの世代』と言われている。

───が、『キセキの世代』には奇妙な噂があった。

誰も知らない、試合記録も無い、にも関わらず天才5人が一目置いていた選手がもう1人───幻の6人目がいた───と。









委員の仕事を漸く終わらせた遥が部活勧誘ブースに到着したとき、そこは後片付けの最中のようだった。

ショートヘアの女子生徒がただ1人、黙々と作業している。


「リコ!手伝えなくてごめんね!」


その声に、テーブルの上のプリントを束ねていた女子生徒───リコが振り返った。


「あ、おかえり。遥の代わりに伊月君がずっとコッチにいたから大丈夫よ。もういいの?」

「うん。有望そうな子いた?」


遥は走ってきたせいで乱れた髪を整えながら、リコの手元へ目を落とす。

彼女が束ねていたそれは、後輩たちの名が書かれている入部届のはずだ。


「聞いてよ、七瀬ちゃん!」


返事を返したのはリコではなく、暫し席を外していたらしく、ちょうど此方へ向かってきた部員の小金井。

猫をイメージさせる彼は、何やら思わせぶりな表情で遥に詰め寄った。


「今年の1年ちょーヤバいかもっ!」

「…どう見てもタダ者じゃない子と帝光出身の子がいるのよ」


口元に軽く握った手をやると、リコも何やら難しそうに眉を寄せつつ補足する。


「帝光?」


遥が反応を示したのは、リコの口から出た自身の出身校の名前だった。

帝光出身でバスケ部に入りそうな人物───思い当たる節があった彼女は、1人納得してその名を告げる。


「あ、黒子テツヤか」

「遥、その黒子君って───」

「おーい、カントクー!そっちどーだったー?」


嬉しそうに口角を上げた遥にリコは何か言いかけたが、声かけに行っていた他の部員が帰ってきたために有耶無耶となってしまった。

先頭に主将の日向、後続には伊月、水戸部、土田と、これでひとまず部員全員が揃ったことになる。


「あ、順ちゃんたちおかえりー」

「おお、七瀬。委員の方はもういいのか?」


遥が委員の仕事で遅刻することを知っていたため当然の質問ではあったのだが、すぐ後ろにいた伊月からすれば聞き逃せない一文だったらしい。

彼の切れ長の瞳が輝く。


「『委員の方はもういいのか』……!?日向、それもらっていい?」

「あ、ホントだ。順ちゃん上手いね」

「もう喋るなオマエら」


素早くネタ帳を取り出す伊月と、それに更に乗っかる遥に日向がツッコむ。

いつものやり取りが繰り広げられたところで、リコは仕切り直しと言わんばかりに両手を打った。


「はいはい、バカやってないで、さっさと片付けて戻りましょ!」


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