「うん…さすがに食いすぎた…」

「凄いねこれ…」


はちきれんばかりに膨れ上がった火神の腹を眺め、遥は呆気にとられていた。

彼女が誠凛一行と合流したとき、彼らは飲食店『ステーキボンバー』にて、『超ボリューム4kgスーパー盛盛ステーキ!30分以内に食べきれたら無料。※失敗したら全額自腹1万円也』というメニューに挑戦していたのだが、そのあまりの過酷さに屍累々だったのだ。

気絶している水戸部、早々にリタイアしたらしい黒子、そして肉片を片手に苦しみ喘ぐ大多数の部員たちの姿に、遥も驚きを隠せなかった程である。

そんな彼らの救世主が、強靭な胃袋を持つ後輩・火神。

リスのようにステーキを頬張っていた火神が、テーブル上の全てを美味そうにその胃へ収めてくれたため、見事30分以内に全員完食、現在に至るのだった。


「「ごちそうさまでしたー!!」」

「じゃ、帰ろっか!全員いる?」


リコの声に、遥も確認のため付近を見渡す。

店先に並ぶ部員たちの中に、重要な人物の姿が見当たらない。

日向も事態に気付いたようだ。


「…あれ?黒子は?」

「いつものことだろー。どうせまた最後尾とかに…」


自分の周りを忙しなく見渡す部員たち。

今までの経験から、誰かの影に隠れていないかと遥もあちこちに目をやるが、その姿は確認出来ない。


「いや…マジでいねぇ…ですよ」

「…え?」


遥の顔が不安の色に染まる。


「家まで送るって言ったのに…」









「黒子───」

「アイツ、ケータイ持ってねーのかよ?」


皆ぶつくさ言いながらも店を起点に仲間を捜しているのだが、やはり彼の姿は見当たらなかった。


「電話してるけど、留守電になっちゃう」


遥は携帯を耳に押し当てながら言う。

日向は溜め息を吐いた。


「てか、すぐフラフラどっか消えるって…子犬か!」


その横では、カントクがご立腹のようである。


「それより早く見つけましょ!逆エビの刑はそれからかな!」

「……」


黒子の逆エビも確定したところで、遥は無機的に流れる定型文を最後まで聞かずに携帯を閉じた。

何処へ行ってしまったのか見当もつかない今、神出鬼没な黒子を見つけるのは至難のわざだろう。


「…ったく」


そのとき、遥の隣を歩いていた火神の足が止まった。


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