「うん…さすがに食いすぎた…」
「凄いねこれ…」
はちきれんばかりに膨れ上がった火神の腹を眺め、遥は呆気にとられていた。
彼女が誠凛一行と合流したとき、彼らは飲食店『ステーキボンバー』にて、『超ボリューム4kgスーパー盛盛ステーキ!30分以内に食べきれたら無料。※失敗したら全額自腹1万円也』というメニューに挑戦していたのだが、そのあまりの過酷さに屍累々だったのだ。
気絶している水戸部、早々にリタイアしたらしい黒子、そして肉片を片手に苦しみ喘ぐ大多数の部員たちの姿に、遥も驚きを隠せなかった程である。
そんな彼らの救世主が、強靭な胃袋を持つ後輩・火神。
リスのようにステーキを頬張っていた火神が、テーブル上の全てを美味そうにその胃へ収めてくれたため、見事30分以内に全員完食、現在に至るのだった。
「「ごちそうさまでしたー!!」」
「じゃ、帰ろっか!全員いる?」
リコの声に、遥も確認のため付近を見渡す。
店先に並ぶ部員たちの中に、重要な人物の姿が見当たらない。
日向も事態に気付いたようだ。
「…あれ?黒子は?」
「いつものことだろー。どうせまた最後尾とかに…」
自分の周りを忙しなく見渡す部員たち。
今までの経験から、誰かの影に隠れていないかと遥もあちこちに目をやるが、その姿は確認出来ない。
「いや…マジでいねぇ…ですよ」
「…え?」
遥の顔が不安の色に染まる。
「家まで送るって言ったのに…」
*
「黒子───」
「アイツ、ケータイ持ってねーのかよ?」
皆ぶつくさ言いながらも店を起点に仲間を捜しているのだが、やはり彼の姿は見当たらなかった。
「電話してるけど、留守電になっちゃう」
遥は携帯を耳に押し当てながら言う。
日向は溜め息を吐いた。
「てか、すぐフラフラどっか消えるって…子犬か!」
その横では、カントクがご立腹のようである。
「それより早く見つけましょ!逆エビの刑はそれからかな!」
「……」
黒子の逆エビも確定したところで、遥は無機的に流れる定型文を最後まで聞かずに携帯を閉じた。
何処へ行ってしまったのか見当もつかない今、神出鬼没な黒子を見つけるのは至難のわざだろう。
「…ったく」
そのとき、遥の隣を歩いていた火神の足が止まった。
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