「何?結局全面使うの?」
「ゴールぶっ壊した奴がいんだってよ!」
「はあ?…うお!マジだよ!!」
火神が片面のゴールを破壊してしまったため、急遽全面を開放することになった海常部員たちは体育館内を走り回っていた。
誠凛陣も各々の荷物片手に移動している。
「確かにありゃギャフンっスわ。監督のあんな顔初めて見たし」
「人ナメた態度ばっかとってっからだつっとけ!」
遥がふと顔を上げれば、黄瀬と火神と黒子の1年レギュラー組が、何やら話をしているところだった。
まさかゴールを破壊するとは思わなかったが、そのおかげでライバルたちはいい雰囲気らしい。
「ゴールって…いくらするんですかね?」
「え!?あれって弁償!?」
ピンからキリまであるが、壁取付式なら3万程度から揃わないこともなく、安いブランドのものでも、バックボードだけで5万は見ておかなければいけないものもあったはず───遥が曖昧な記憶を探っていると、海常監督の鋭い声が響く。
「黄瀬!ちょっと来い!!」
いよいよエースのお出ましか。
準備も整い、選手たちはコートへ、遥は残りのメンバーとベンチに腰を下ろした。
「それでは試合再開します」
合図の笛が鳴ると、辺りが一気にざわめき出す。
「やっと出やがったな…」
コート上、青いユニフォームの背には7番。
「スイッチ入るとモデルとは思えねー迫力だすなオイ」
バスケットプレイヤーというだけでなく、モデルとしての知名度も高い海常1年エース。
「…伊達じゃないですよ。中身も」
自信たっぷりな笑みを浮かべる、『キセキの世代』の1人、黄瀬涼太。
彼を視るリコの瞳には、どんな値が見えているのか。
「キャアア黄瀬クーン!!」
湧き出すように飛び交う黄色い声は、全てコート上の黄瀬に向けられている。
ベンチにいる遥たちは勿論、コートが良く見える位置に群がるのは制服姿の女子生徒たちだ。
頬を赤く染め手を振る女子生徒に、黄瀬は愛想良く手を振り返す。
彼に対する悲鳴のような歓声に、遥と黒子以外の見慣れず聞き慣れずな誠凛陣は呆気にとられていた。
「やっぱり凄い人気だね、涼太」
遥の声が聞こえたはずはないが、ファンサービスをしていた黄瀬は誠凛ベンチへと向き直ると、嬉しそうに自ら手を振ってみせる。
「テメーもいつまでも手とか振ってんじゃねーよ!」
「いてっ、スイマッセ──ンっっ」
「シバくぞ!!」
遥が手を振り返したためか喜んでいる様子だった黄瀬に、それはもう見事な跳び蹴りを食らわしたのは、海常の4番を背負う笠松だ。
蹴りの次はすかさず肩パン連打。
と、やられっぱなしだった黄瀬の表情が変わった。
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