思いがけない来客から数日後、練習試合当日。

カントクのリコを先頭に、誠凛メンバーは海常へと足を踏み入れていた。

辺りを見渡しながら最後尾を歩く遥の肩に下がっている学校指定の鞄には、500mlのペットボトルのミネラルウォーター2本と救急用の備品が詰まっている。

例え練習試合でも、マネージャーとしての準備に抜かりはない。


「おお〜〜、広〜〜〜〜。やっぱ運動部に力入れてるトコは違うねー」


日向が言う通り、海常は迷ってしまいそうな程に広大な敷地を所持していた。

目の前の校舎も相当な大きさである。


「火神君、いつにも増して悪いです。目つき……」

「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」


違う意味で緊張している火神と黒子の会話を聞き流しつつ、遥はポケットから携帯を抜き出した。

歩きながらも素早く操作し、メールを作成していく。

宛先は、現在体を思う存分動かせずにいる、遥にとっても部員たちにとっても大事な仲間。

書き出しに、何の変哲もない一文を打ち込んだ。


「───…」

「────!」


エースである彼がいない中での練習試合。

相手は格上、インターハイ常連校。

しかも今年からはキセキの世代の1人、黄瀬涼太がいる。

様々な意味での不安も抱きつつ、遥は最後にこう付け加えた。

『誠凛として、先輩として、戦ってくるね。』と。


「あ、センパイ来てないかと思ったじゃないスかー!」

「!?」


メールに必死で下を向いていた遥は、嘆く声と共に自身に飛び付いてきた彼を避けることが出来なかった。

主人を見つけた犬のように遥に抱きついているのは、本日の対戦相手、黄瀬涼太だ。

かつての後輩に捕らわれたまま身を捩る遥は、彼の行動にも発言にも疑問符を浮かべている。


「とりあえず離してくれる?」

「もー、会えるの楽しみにしてたんスよ」


遥を解放する代わりに腕を引き、黄瀬は来た道を駆けた。

その先、数メートル前方には呆れ顔の誠凛陣。

どうやら、メール作成に夢中になっている間に距離が開いてしまっていたらしい。

それを黄瀬が迎えにきたのだと判断した遥は、腕を引かれながらも走る速度を上げた。


「七瀬、頼むから団体行動してくれ」

「以後気を付けます…」


合流するなり主将直々に、切実に訴えられた遥は素直に頭を下げる。

頭を抱えるカントクからは無言の注意、伊月からは優しい忠告、水戸部からは本気の心配、小金井からは「もー」と黄瀬と同じセリフ、土田からはフォローをもらうこととなった。

同期の仲間たちの反応は様々だったが、1年生は揃って、何とも表現し難い表情で遥を見ている。


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