第4Qは、未だかつて見たことがない程の取っ組み合いだった。

開始直後青峰が先制したかと思うと、同じようにすぐさま黄瀬が返す。

また青峰がシュートを放てば、同じようにすぐさま黄瀬が撃つ。


「嘘でしょ…」


エースの攻防に沸き立つ中で零れた本音は、熱気に包まれた会場内にも関わらず震えていた。

トリッキーに青峰が決めれば、トリッキーに黄瀬が決める。

4ファウルを物ともせず自由に攻める青峰と、それを瞬時に模倣し一歩も譲らない黄瀬。

だが、時間が経つにつれ会場は徐々に落ち着き静まり返っていった。

それはしらけたわけではなく、むしろ逆───


「いつまで…続くんだ」


実におよそ9分間、一本も落とさず両エースは交互に点を獲り続けたのだ。


「しんどいわね…」

「ほんと疲れたー」

「アンタじゃなくて!ここまで流れが変わらない試合は初めてだわ。中の選手は相当精神ケズられてるハズよ」


エース同士の息も吐かせぬ緊張感は、離れた観客席にも十分すぎる程伝わってくる。

頭の先から爪先まで痺れるような空気に覆われたコート内は、もっと苦しく意識が飛びそうな程の重圧と戦っているのだろう。


「特にキツいのは追う海常だ。信じられない長時間8点差と10点差を繰り返して、縮まらないまま時間はどんどんなくなる…」


とそのとき、集中力が切れたのか桜井がファンブル───ボールを拾った黄瀬が駆け出す。

とうとう均衡が崩れた。


「ここで勝負が決まる!残り1分、これを決めれば差はスリー2本分。チームも一気に士気を取り戻せる。逆に落とせばタイムリミットだ。つまり…」


ずっと追い続けていた海常にとっては絶対穫らなければいけない最後のチャンスで、ずっとリードしていた桐皇にとっては絶対阻止しなければならないゴールである。


「事実上…最後の一騎打ちだ!!」


飛び出した黄瀬の前に立ち塞がるのは、やはりエースである青峰。

最初からマッチアップし続けていた通り、キセキの世代の相手はキセキ世代でなければ務まらない。

右か、左か、どう出るか。


「………!」


黄瀬が型の無いシュートを放つ───と見せかけて腕を返した。

その先にいるのは海常主将・笠松だ。

が、その先輩へのパスを見抜いていたらしい青峰がボールを弾き飛ばす。


「海常痛恨の無得点!千載一遇のチャンスを逃した…!!」


これで流れは完全に桐皇だ。

思わず握り締めた両手が、遥の胸元で震えている。

両エースは極限で判断したのだろう。

黄瀬は高く聳える青峰の上をいかず、先輩へ託すことを選んだ。

対する青峰は、自分を模倣しきれなかった黄瀬の行動を読み、チャンスを蹴散らした。

孤高のエースである青峰に、主将へのパスという選択肢はなかったからこそ、黄瀬は読まれ負けたのである。


「涼太……大輝……」


今までの黄瀬であれば、青峰の模倣は出来なかっただろうし、最後に先輩へ託すという選択肢もなかったはずだ。

その黄瀬の変化を嬉しいと思う半面、それでも青峰を崩すことが出来ないという現実が重くのしかかる。

誰が見ても分かるように、エースの手でチャンスを逃した海常に、勝利はない。

しかし彼らは、最後の最後までコート上で戦い続けた。


「試合…終了───!!!」


海常対桐皇、98対110にて試合終了。

見せつけられたハイレベルな戦いに、不安と共に湧き上がるのは闘志だ。

この戦いの中に自分達も混ざり、そして打ち負かすことが出来なければ日本一の座につくことは出来ないのだから。


「いつまでも呆けてらんないわ!帰って早く練習するわよ!」

「…え?あ…帰んの…!?ですか。この大会他の"キセキの世代"も出てるんじゃ…」

「そりゃあできれば最後まで観たいわよ!」

「いやだからホテルとか見っけて…」


カントクの号令に待ったをかけたのは火神だ。

彼の言う通り、この先の試合も見て損はない戦いになるだろうが、見て学んでばかりいられないのが現実である。


「ハハハ、ホテルか。おい火神、どこにそんな金あんだ!!ボンボンか!?お前実はちょっとボンボンか!?ついでにそんな何泊も増やしたらカントクのパパにブッ殺されんだよ!」


日向にたっぷり絞られた火神を苦笑混じりに見つめながら、遥はそっと思案した。

今の対決に感化された面々は、これから学校に戻って時間の許す限り練習を行うのだ。

いつまでも壁に背を貼り付け立ち止まっているのは自分だけで、先輩も同輩も後輩もそれぞれ違う扉を開いている。

であればいい加減、隅っこで縮こまって時を待っているだけの自分とは、おさらばしなければならない。

『七瀬遥』の居場所は、もうとっくにないのだから───。




END

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