「青峰の模倣…!?」

「そんな…できるのか!?」

「…そもそも黄瀬君の模倣というのはできることをやっているだけで、できないことはできません」


絶対的エースである青峰を上回らない限り海常に勝利がないのなら、海常のエース黄瀬が彼に打ち勝つしか道はない。

そしてその青峰に太刀打ちするのに必要不可欠なのが、黄瀬の尋常じゃないスペックによる模倣なのだ。

青峰を模倣することが出来れば、『彼』に勝つことが出来る『彼』が試合を支配することになるだろう。

───そもそも、海常からすればもはや出来る出来ないではなく、勝つために『やる』だろうが。


「つまり…簡単に言えば『のみこみが異常に早い』ってこと。NBA選手の模倣とか、自分の能力以上の動きは再現できない」

「だが…逆に言えば、それでもやろうとしてるってことは『できる』と信じたってことだ」


放っただけにも見える軽いシュートが放たれ、今吉のブザービーターにて第2Qは終了となった。


「第2Q終了です。これより10分のインターバルに入ります」


34対43、桐皇リード。


「ちょっとお手洗い行ってくるね」

「分かった」


隣に座る土田に声をかけて席を立った遥は、女性用化粧室へそっと滑り込む。

運良く他の使用者がいないらしく、大きな溜め息を吐きながら洗面台の前に立った。

鏡に映る彼女の表情は酷く暗く、誠凛バスケ部の面々には一目で何かあったと悟られてしまうだろう。

優しい仲間達のことだ、合宿の疲れが出たのかと心配の声が上がるかもしれない。

だがそれでは駄目なのだ。

七瀬遥が七瀬遥であるために、この試合を見届けそして、向き合わなければならないのである。









「第3Q始めます」


第3Q開始早々、黄瀬が仕掛けた。

桐皇主将・今吉を、あの青峰の如く抜き去ろうとしたのだ。

すぐさまファウルでストップとなったが、こうでもしなければ今吉はあっさり抜き去られていただろう。

───まるで青峰のように。


「ああー、惜しい…!!」

「それより今の動き、青峰っぽくなかったか!?」


黄瀬は更に、ファウルをもらいながら青峰のようにシュートを決めてみせた。

観客席にも伝わる黄瀬の集中力、そして青峰に近い雰囲気を纏うその姿はファウルでしか止める術がない桐皇からしても脅威以外の何物でもないだろう。


「すっ…すげぇえ黄瀬…!てゆーかカンペキ青峰みてーじゃん!!」

「…いえ、たぶんまだ不完全よ。その証拠に速攻とかで青峰君以外がマークに来た時しかやってない。きっと本人の中でまだイメージとズレがあるのよ」

「そうだね。確かに大輝みたいではあるけど…やっぱりまだ涼太みたいだし…」


青峰を彷彿とさせるプレーではあるが、黄瀬はまだ完全に自分の物にしきれていないようだ。

それほどまでに、才能に秀でたキセキの世代のコピーは簡単ではないということだろう。


「つまり…黄瀬が青峰に再び1対1を仕掛けた時が模倣完成した時だ」


───ゴッ。

黄瀬に飲まれようとしていた空気が変わった。

放っただけの青峰のシュートは、鈍い音を立ててリングを潜り落ちる。


「タラタラしてんじゃねーよ、黄瀬。別に間に合わなきゃそれまでってだけだ。テメェの準備が整うまでおとなしく待ってやるほど、オレの気は長くねーぞ」


現時点で両チームの点差は14点。

黄瀬の模倣が完成したとしても差が開きすぎていれば、埋まるものも埋まらない。

巻き返しの時間も考慮するなら、15点差がデッドラインだろう。


「なっ!?強引に打った!?」


今吉のマークを強引に振り切った笠松のシュートを、OFリバウンドに食いついた早川がフォローし海常に2点追加。

続いて桜井のクイックリリースに反応した森山が、それを遮り相手の追加点を阻止した。

海常の皆が皆、エースである黄瀬を信頼し、最後まで諦めず粘り奮闘する姿は、コート内だけでなくコート外にも響いていく。


「じゃあそのオレが相手なら、どうなるんスかね?」


静かに色を変えた黄瀬が、ついに青峰と向かい合った。

その青峰と遜色ないプレッシャーを放つ彼は、ついに青峰を───。


「調子に乗ってんじゃねェぞ黄瀬ェ!」

「ダメーッ!」


青峰にぶつかられながら放たれたシュートは、彼が普段してみせるようにリングを潜る。

『自分』に抜かれた青峰はバスケットカウントだけでなく、4つ目のファウルまで刻まれることとなってしまった。


「青峰ファウル4つ目───桐皇のエースまさかのファウルトラブル!」


後ファウル1つで退場となってしまう。

この状況では、攻めの手を緩めざるを得ないだろう。

対する海常は、黄瀬がきっちりフリースローを決め点差が9点になった。

たっぷり時間の残る今、1桁は十分射程圏内だ。


「青峰…!!!」


黄瀬に抜かれた動揺からなのか、今吉のパスを青峰がファンブル───そのこぼれ球を見逃す海常ではない。

すかさず黄瀬が青峰の模倣を駆使して切り込む。

が、それをゴール直前で阻止したのはやはりあの青峰だった。


「4ファウルぐれえで腰が引けると思われてたなんて、なめられたもんだぜ。けどなあ、特に気にくわねえのがテメエだ、黄瀬」


4ファウルとは思えない程力強くカットされたボールは、その勢い衰えぬまま観客席へ突っ込んでいる。


「いっちょ前に気ィ遣ってんじゃねーよ。そんなヒマあったら死にもの狂いでかかってきやがれ」


4ファウルで絶体絶命の桐皇エース対、エースの模倣に成功した海常エース。

互いが一歩も譲ることない戦いは、とうとう最終Qへ縺れ込もうとしていた。


「第3Q終了です」




END

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