キセキの世代対決は、試合開始早々、息を吐かせぬ試合運びとなった。

早速黄瀬対青峰のエース対決があったかと思うと、桜井のクイックリリースによって桐皇先制。

それをそっくり黄瀬が返してみせれば、反応した青峰のガードに怖じ気づくことなく海常主将・笠松の3Pが決まる。

エース対決は桐皇が優勢に見えるものの、海常も名だたる強豪、簡単にリードは許さない。

エース以外の面々の実力は勿論ではあるがしかし、やはりあの青峰を攻略しなければ海常が劣勢であるのは間違いないだろう。


「オレはアンタを倒したいんだよ。理屈で本能抑えてバスケやれるほど大人じゃねーよ!」

「…やってみな!」


その青峰のマークは当然、同じキセキの世代である黄瀬にしか務まらない。

この試合中何度も見ることになるであろう1対1を観客席から見つめながら、遥は1人戦っていた。

前から後ろから横から───四方から足音を立てず迫ってくる幻影と。

それはとても不確かなモノであるというのに、確かな形を形成し、ゆっくりと着実に端から飲み込んでいくように近付いてくる。

背筋を伝う見えない指先は、触れてもいない白い首を確実に絞めていった。


「あの青峰を…止めたぁ!!」


トリッキーな青峰の動きについていく黄瀬───食らいついた彼はついに、彼にとって絶対的な存在であった青峰を止める。

見事なプレーに湧き上がる場内。

その勢いのまま、エース以外も十分力を持つ海常勢が桐皇のDFを掻い潜り、得点を重ねていく。

怒涛の展開に場内も流れも海常のまま、海常リードで第1Q終了が告げられた。


「第2Q始めます」


そして続く第2Q、どんどん調子を上げる青峰の敏捷性、技術、いっそ憎いまでのバスケセンスが遺憾なく発揮され見せつけられていく。

あっと言う間に差はなくなり、試合は同点、振り出しとなった。


「……?」


遥がそれに気付いたのは、海常がタイムアウトを取った後すぐ、黄瀬が青峰との1対1を避けたときだった。

あのプライドの高い黄瀬が逃げとも取れる行動に出たというのは勿論引っかかるし、だがそれでいてけして試合を放棄しているようにも見えない。

続けてあっさり抜かれたかと思えば、青峰の攻撃は海常主将・笠松相手にファウルとなり救われている───。

元々海常は皆でエースのカバーをしてみせ応戦しているが、黄瀬は常に青峰と対峙し、それでいてやり返すのではなく流されているようなのだ。

明らかにいつもの黄瀬らしくない。

が、遥はそんな黄瀬を知っていた。

一度遥自身も向けられたことのある、全てを見透かすようなあの瞳をしている彼は、おそらく。


「涼太…大輝を…?」


遥と同じ結論に至ったらしいルーキー達も、まさかと声を震わせる。

黄瀬からすれば青峰は憧れの人で、スタイルは違えど良きお手本であった。

身体能力と洞察力の高さを活かして他のプレーヤーの技を模倣してきた黄瀬が、模倣しきれなかった相手の1人が青峰だ。

そのせいもあってか、今の今まで黄瀬は、青峰に勝ったことがない。


「黄瀬君がやろうとしていることは」


では、自身が勝ったことがない青峰を模倣し、青峰に挑めばどうなるか。


「青峰君のスタイルの模倣です」


その答えが今、この場で示されようとしていた。


「憧れるのはもう…やめる」


憧憬に恋をし満たされたフリをしていた遥の耳元で、何も出来ない自分が喚き立てている。

───貴女は溺れ甘えているだけだと。




END

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