ブザーと共に、誠凛VS桐皇第1Q終了。

束の間の休息時に遥がすることは、カントクの指示を聞きながらの適切かつ迅速なサポート業務だ。

両の瞳は、ベンチに腰掛けているメンバーへ鋭く向けられる。


「黒子君と火神君を中心に攻めるわよ!」


間違いなく要になるであろう黒子と火神の志気は問題ない。

2年生3人も、動きを封じられていたわりには体力も消耗していないようである。

安堵の息を漏らした後、全てを塗り替えるように遥は息を吸い込んだ。

この5人には最後まで走り抜いて、前を向いてもらわなければならないのだ。


「さつきの情報と研究は凄いけど、彼女は選手じゃないの。だから相違は絶対出てくると思う。つまり…」

「暴れろ1年生!」


第2Q開始のブザーが鳴り響いた。

開始早々、黒子の手により軌道を変えられたボールが火神へと向かう。


「つーか、ついこの前まで中坊だったガキが、バカバカダンクすんなボケェ!!」


跳ぶ火神に、跳ぶ諏佐と若松。

しかし2人のブロックを物ともせず、宙に残った誠凛ルーキーの手で点が追加された。

この中で群を抜く跳躍力は、『情報』でどうこう出来るものではない。


「情報があるだのねーだのまどろっこしーんだよ!んなもん全部蹴散らして跳んでやらー」


アクセル全開の火神のおかげで応援にも力が入る。

観客の歓声も心地好いほど追い風だ。


「緊急事態だわ。小金井君、至急アップよろしく!」

「え…」


しかしその流れを断ち切るように、固い声が挟まれる。

冷や汗すら浮かべるカントクの表情も固い。


「遥は救急箱ね!」


遥は慌ててコート上に佇むルーキーを見た。

得意のダンクを叩き込んだばかりの彼は───


「私じゃなくて、見えてるリコの方がいい…んだよね?」

「…そうね。私がやるわ」

「誠凛メンバーチェンジです」

「火神!交代!」

「は!?」


救急箱を手近に用意し、遥はそっと身を引いた。

マネージャーとして応急手当ての知識も経験も勿論あるのだが、どうやら手伝えることがないようなのだ。

ベンチに戻ってきた火神に席を譲り、諭すということぐらいしか。


「痛めた足…完治してないわね?」

「…大丈夫…っすよ!まだ全然…」

「火神くん、リコには見えてるの…知ってるよね?」


遥がどこか不安げに投げ掛ければ、火神は唇を噛み締め黙り込んだ。

多少なりとも、思い当たる節があったのだろう。


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