あの青峰がいなくとも圧倒的な強さを見せる桐皇相手に勝機を垣間見せる誠凛ではあったが、ベンチの片隅では拭いきれない不安と1人戦うマネージャーの姿があった。

彼女の予想では、もうじき誠凛の動きが通用しなくなってくるはずなのだ。

厄介なのは、実際にプレイをする選手たちだけではないというわけである。


「私にもその才能があれば良かったのに」

「3P!?いや…」


零れる本音をかき消すように、コート上では外が苦手なはずの火神が3Pシュートを放ったところだった。

が、それはただの3Pではない。

外れることを見越した火神の策───


「1人アリウープ!!」

「知ってますよー。そう来ると思ってたから。単純なんだから、ホント男の子って」


リバウンドを拾いに走ろうとした火神が、初めて見せるはずのその策を知っていたかの如く切り返した諏佐によって止められた。

リングに弾かれたボールは、あっさりと桐皇に奪われてしまう。


「研究されてるわね、おそらくあの子に。桃井の正体は情報収集のスペシャリスト。いわば諜報部員ってワケね」


カントクの言葉を裏付けるように、今度は水戸部が阻まれた。

彼がフックシューターであることも、向こうには筒抜けということである。


「まずくないすか!?なんか手を打たないと…」

「…必要ないわ!このまま行くわよ!」

「え!?」

「いくら正確な情報を持っていたとしても、それは過去のものでしょ。人間は成長するのよ。そんな常識も知らないで、知ったかぶってんじゃないわよ!」


確かにカントクの言う通り、人間は成長するものだ。

実際、その成長の過程を傍で見てきているからこそ、遥は賛同するように頷いてみせる。


「………でも、さつきはそれだけじゃないよ。あの子は『キセキの世代』のマネージャーなんだから」

「知ってますよ──。そう成長すると思ってたから」


そして今度は遥の呟きを裏付けるように、日向の攻撃が止められる。

ピュアシューターである日向は、攻撃の幅を広げようとドリブルテクニックを磨いてきていた。

ただ3Pを撃つのではなく、自ら切り込み道を開くそのスタイルは今回初めて見せるパターンだったにも関わらず、桜井はそれを見事に止めてみせたのだ。


「その人の身長・体重、長所・短所、性格・クセ…全部集めて分析・解析、絞り込み…最後の秘訣は女のカンよ」


桃井さつきの正体は、ただのマネージャーでもただの諜報部員でもない。


「…っく」


今までの過程だけでなく各々がどこまで成長しているかも計算尽く、どのパターンも読まれてしまっていると分かっているからこそ、伊月はボールを手に動けずにいた。

PGである彼が誠凛の攻撃を組み立てるわけだが、いつも通り攻めても予想通りの結果となるだろう。

───が、ベンチのカントクには余裕の笑みが浮かんでいた。


「そんぐらいやってくると思ったわ。甘いぞ小娘!」


伊月から日向へボールが渡る。

だが優秀すぎるマネージャーから情報を受け取っているであろう桜井のマークに、迷いはない。


「『このままで行く』って言った理由はもう1つあるわ。もっと単純な…つまりそれは」


カントクの言わんとすることを察し、遥の表情に明るさが戻る。

さすがと言えばいいのか、やっぱりと言えばいいのか。

予想は裏切られたが、彼は期待を裏切らない。


「女のカンよ!」


突如現れた黒子のスクリーンで日向が抜ける。


「彼は女のカンでも、次何するかわからない!」


そのまま火神に繋がり、誠凛に追加点。


「15点目、と…」


誠凛は6点ビハインドだが、情報を超える黒子がどこまで対抗出来るのか。

そして何より恐ろしいのは、まだ見ぬ青峰がどこまで成長しているのか。

倒すべき主役を前にしたとき、誠凛ルーキー・火神がどれほどの力を見せてくれるのか。


「確かに女のカンも凄いけど、男の成長も凄そうだよね…」


巡り巡る板挟みの感情が解放されるまで、後───。




END

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