6月23日、朝。

目覚ましが鳴るよりも早く目が覚めた遥は、ベッドの上で上半身を起こしたまま虚空を見つめていた。

清々しい朝ではあるのだが、纏うのは気怠さすら感じる重い空気。

これから大事な試合があるというのに、頭の中には割り切れない思いが募っている。

それを振り払おうと窓辺まで足を進めると、ぴったりと閉められていたカーテンを横へ引いた。

まだ勢いの弱い日差しを受けながら大きく息を吸い込み吐き出せば、胸の内に溜まったものも出ていくようだ。


「いよいよだよ」


誰に聞かせるでもなく呟くと、それを見越していたかのようにバイブ音が返ってきた。

枕元に置いてあった携帯が呼んでいるらしい。


「……うん、頑張る」


苦楽を共にした友人からの連絡に思わず頬を綻ばせたのも束の間、普段の彼女からは想像がつかないような冷たい瞳に一筋の寒色が射した。

決勝リーグ初戦、大一番当日。

勝つか負けるか、笑うか泣くか。









「…そろそろ時間よ。全員準備はいいわね!?」


緊張高まる誠凛高校控え室に、カントク声が鋭く響く。

同じく緊張のせいか、その斜め後ろで待機する遥の表情も硬い。


「大事な初戦よ!!何度も言うけどI・Hに行けるのは4校中3校!小金井君も前に言ってたけど、一見難しくなさそうにも見えるわ…けど」

「んっ…!?えっ!?何!?ちょっ、水戸…伊月!?」


話題に出たばかりの小金井の左手を水戸部が、右手を伊月が抱え込んだ。

そして。


「なめんなー!!!」


パァンッ!!!と気持ちいい程高らかな音を立て、カントクのハリセンが小金井の頬へヒットする。

それはもう痛そうであるが、誰も口出ししないのは相手があのカントクだからかつ、自身が標的になりたくないからであろう。

遥は反射的に鞄に手を差し入れ、例の如く湿布を探し始める。


「リーグ戦だから一敗までは大丈夫…とか、そんなこと少しでも考えたらおしまいよ。大事なのは今!この試合よ!!」

「あ、湿布あったよ、コガくん」

「……うん、ありがとう、七瀬ちゃん……」

「『次頑張る』は決意じゃなくて言い訳だからね!そんなんじゃ次もダメよ!!」


ひっそり行われていた緩いやり取りも、どうやらここまでのようである。


「絶対勝つぞ!!誠凛─────────」


円になる皆に倣い、遥も重心を下げて大きく息を吸い込んだ。


「ファイ!!」

「オオ!!!」


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