立ち尽くす火神の前で、緑間の体がふわりと浮かぶ。
典型的なジャンプシュートのフォームである。
これが放たれれば、100%ブザービーター。
緑間の宣言通りの結末だ。
「ああああ」
もうとっくに限界であるはずの火神が地を蹴る。
全身の力を振り絞ったのであろうそのジャンプは、緑間を防ぎきる程高い。
「だろうな。信じていたのだよ。たとえ限界でもオマエはそれを超えて跳ぶと」
が、無情にもシーソーの如く、今度は緑間の体が沈み込んだ。
この土壇場、残り2秒でのフェイク。
今度こそ本当に───。
「決めろ緑間ァ!!」
「ボクも信じてました。火神君なら跳べると。そして、それを信じた緑間君が一度ボールを下げると」
かつての仲間と今の仲間を信じていた黒子が、手の届く位置へと下げられていたボールを静かに叩き落とした。
残り1秒。
そして次の瞬間、タイムクロックは躊躇うことなく0を刻んだ。
「試合…終了──────!!!」
緑間のブザービーターを防ぎきった誠凛の、勝ち。
昨年の大敗を振り払うように喜ぶ誠凛に、敗北を噛み締め項垂れる王者。
緊張から解放され、喜びより先に脱力感に包まれた遥のぼやけた目に映るのは、力一杯感情を露にしている誠凛レギュラー陣と、結果を受け止めている秀徳レギュラー陣である。
昨年と対照的な結末ながら、今年は更に特別な勝敗だ。
『彼』がいなくとも、努力を見せつけ雪辱を果たした誠凛。
一方秀徳では、『彼』が初めて敗北を味わうこととなったのだ。
「82対81で誠凛高校の勝ち!!」
「「ありがとうございました!!!」」
ベンチへ帰ってくる達成感に満ち溢れた仲間たちを涙目で迎える遥だったが、視界の端で見送る背中が背負うのは正反対の2文字。
今自分が感じるべきなのは間違いなく喜びであるというのに、罪悪感にも似たこの感情は何なのか───。
振り返ることのない緑に名残惜しげに音無き別れを告げて、遥は仲間たちと共に舞台を後にした。
END
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