開いた口が塞がらない。

アメリカ帰りの誠凛ルーキーは、どれだけ他を圧倒すれば気が済むのだろうか。


「うわぁあ高えぇー!!」

「信じらんねー、1人で秀徳を圧倒してるぞ!?」


残り2分。

スコアは45対56。

コート外でそれを見守る仲間ですら動揺しているのだから、『キセキの世代』である緑間を止められ、大黒柱の大坪をも打ち負かされた秀徳は相当揺さぶられていることだろう。


「宮地サン、タンマ!!その位置は…」


『鷹の目』でコート内を把握している高尾の制止も、時既に遅し。

秀徳8番・宮地のシュートを火神が叩き落とすと、一気に流れは誠凛へ。

ルーキーかつエース、火神と共に秀徳5番・木村が飛び上がったはずだが、先に落ちていくのは木村だった。

ベンチにいる遥には分かりにくい話ではあるが、ただの基本的なシュートであるジャンプシュートも、驚異的な脚力を持つ火神にかかれば、ブロック困難な必殺技へと変化しているようである。


「うおお一ケタ差!?」

「この差なら分かんねーぞ!!」


静かに押し寄せる白波に揺れる者がいる一方で、怒濤の巻き返しに盛り上がる会場。

緑間が撃つ。


「……!?」


が、しかし。

今まで散々それに食い付いていたというのに、火神は飛び上がることもブロックすることも出来なかった。

何の障害もなく放たれたボールは、リングの中央を潜り落ちていく。


「悪いが…これが現実だ」


冷酷にも見える緑間が、暗い表情で荒く息を吐く火神を見下ろし言った。

これが『現実』───やはり火神と緑間は根本的に違うのだ。

遥は眉根を寄せ、険しい眼差しを後輩たちへ向けていた。

緑間はそれは頭が良く、皮肉に関しては素直に口にするタイプである。

そんな彼の指摘通り、がむしゃらすぎるプレーで火神は自身の首を絞めたのだ。


「ガス欠、だよね…」


火神から同期の仲間たちへと視線を滑らせ、遥は独りごちる。

誠凛メンバーは皆、王者2連戦で疲労困憊、ついでに重ねて手一杯状態だ。

勿論それは、片方───正邦戦を途中離脱していた火神も同じ。

あの緑間や大坪にも太刀打ち出来る力強く頼もしいプレーであったのは確かだが、あれだけ1人で食らいつけば体力の消耗も激しいに決まっているのである。


「うるせーよ!!この程度で負けてたまるか!!」


見えない何かを振り切るように、無理矢理突っ込む火神。


「火神待て!!」


日向の制止は間に合わず。

これはマズい流れかもしれない。

『向こう見ず』が王者相手に通用するはずがないのだ。


「第3Q終了です」


そんな不安を抱えたまま、いよいよ舞台は最終Qへ。

このタイミングでの息抜きは有り難いがしかし、残された時間は僅かという嫌な空気も纏ったままである。

期待のルーキーがあの状態となれば、ベンチの雰囲気も険悪だ。

荒々しく汚い言葉を吐き捨てる火神の姿は、見ていられないぐらいである。


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