部員たちがベンチに帰ってくる。

マネージャーとしての業務に取り掛かりながら、遥は彼らの顔色を窺ったが、別段調子が悪いというわけではないようだ。

メンタルも十分成長しているということなのだろう。

メンバーの前にしゃがみ込み、カントクは言った。


「正邦は古武術を使うのよ」


『古武術』にいち早く反応を返したのは火神だ。


「古武術…!?アチョー!?」

「アチョー…?」


思わず復唱し、密かに首を傾げる遥。

どうやら、某アクション映画のイメージでいいらしい。


「蹴らないし、それ古武術チガウ!じゃなくて、正確に言うと『古武術の動き』を取り入れてるの」


武術は武術でも、正邦の動きの軸である『古武術』は日本古来の武術である。

『アチョー』とはまた系統が違う。


「その技術の1つに『ナンバ走り』っていうのがあるわ。普通は手足を交互に振って走るけど、ナンバ走りは同じ側の手足を振って走る」


緊張した人物がたまにしてしまう、手と足が同時に出ている、というアレだ。

ごく一般的に、人間は移動する際、右足を出せば左手、左足を出せば右手と互い違いに出す。

しかしそれを意図的に同じにすることによって、大きな利益が生まれているのだ。


「『ねじらない』ことで体の負担が減って、エネルギーロスを減らせるらしいよ」


遥は、愛読書から得た知識の一片を付け加えた。

全国でも稀なプレイスタイルであるため、『月バス』で特集を組まれたことがあるのだ。

ともあれ、このロスの削減が、あのDFでも体力が保つという理屈らしい。


「ナンバ走りの他にも、ふんばらずに力を出したり、タメを作らず速く動いたり、色んな基本動作に古武術を応用してる。それが正邦の強さなのよ」


他のチームとリズムが違う理由、圧倒的なDF力の理由、王者として君臨する強さの理由が、この独特の『古武術』というわけだ。


「けど消えたり飛んだりするわけじゃないわ。相手は同じ高校生よ!フェイクにもかかるし、不意をつかれればバランスも崩れる」


とは言え、カントクの言う通り、相手は自分たちと同じ高校生。

こちらに全くチャンスが訪れない、というわけではない。


「やってるのは同じバスケットよ。いつも通りやればちゃんと通用するわ。まだテンパるとこじゃないわよ!」


王者相手の雪辱戦は、まだ始まったばかりである。


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