2年の心境を察してか、1年生たちの雰囲気が一気に暗くなる。
「うわ!暗くなんな!立ち直ったし!元気だし!むしろ喜んでんだよ!」
確かに1年前にキツい目を見たが、日向の言う通り、各々がそれを既に消化しているのだ。
それに───
「去年とは同じには絶対ならねー。それだけは確信できるくらい、強くなった自信があるからな!」
もう絶対繰り返さない。
遥も小さく握り拳をつくって意気込む。
「あとは勝つだけだ!いくぞ!」
「「オオウ!!!」」
日向の話も終わり、試合開始の時間も迫っているため、メンバーは控え室を後にし始めた。
同級生たちを先に行かせた遥は、1年レギュラー2人の名を呼ぶ。
「テツヤ、火神くん」
ぴくりと肩を揺らした2人の双眸に、遥が映り込んだ。
「順ちゃんの話は事実だけど、気負わなくて大丈夫だよ。2人はちゃんと誠凛の一員として、しっかりプレイしてくれるって分かってるから」
1年レギュラーである2人は、去年の大敗やバスケをやめそうになったという誠凛の過去を、思い出話として聞いただけだ。
2年にとってはそういう思い入れがあるわけだが、変に気負う必要はない。
勿論、1年生には関係がないからと言っているわけでもなく、ただ肩の力を抜いてほしいという遥の言い分を2人共理解しているはずだ。
「時間いっぱい……真太郎とも戦いたいし、全力で勝ちにいこうね」
気合い十分で頷いてみせた火神だったが、傍らの黒子に視線を落とすと僅かに首を捻った。
「?どーかしたか?」
黒子は静かに話し出す。
「……火神君は、バスケを嫌いになったことありますか?」
「は…?いや…ねえけど…」
「ボクは…あります。理由は違うと思うけど…気持ちはわかります。今はあんなに明るいけど、好きなものを嫌いになるのはすごく辛いです」
遥は目を瞠った。
海常との練習試合前、黄瀬が誠凛にやってきたその日に少しだけ聞くこととなった、彼のバスケへの思いが脳内に思い起こされる。
「緑間君と話した時、過去と未来は違うと言ったけど、切り離されているわけじゃありません。この試合は、先輩達が過去を乗り越える大事な試合だと思うんです」
黒子はおもむろに手を伸ばすと、遥の片手を掬うように取った。
「テツヤ…」
力が込められた手は優しいのに、強く逞しい。
いつもは何を考えているのか分からない水色の瞳も、今ははっきりとその気持ちを伝えていた。
「だから…改めて思いました。この試合絶対…勝ちたいです」
*
「それではこれより、Aブロック準決勝第一試合、誠凛高校対正邦高校の試合を始めます」
END
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