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誠凛高校控え室。
王者との雪辱戦を目前に控えた部員たちの表情は暗い。
試合に出場するわけではないが、緊張感を肌で感じながら、遥は高鳴る鼓動を抑えるのに必死になっていた。
「全員ちょっと気負いすぎよ…。元気でるように1つごほうび考えたわ!」
重い雰囲気を見かねてか、カントクが口を開く。
「次の試合に勝ったら…みんなのホッペにチューしてあげる!どーだ!!」
「ウフッ」とハートや星まで散らしてサービスしたカントクだったが、それに真っ先に飛びついたのは隣に立つマネージャーだった。
「え、リコからのチュー?私ももらっていいの?」
「なんなら遥に反対のホッペに───って、え?」
きょとんと顔を見合わす女性2人。
いい反応を返すべき仲間たちは、その光景を物理的にもやや離れて見つめていた。
「ウフッ、ってなんだよ…」だの「星出しちゃダメだろ…」だの、その発言から喜びは全く感じられない。
言葉の刃がカントクに突き刺さる様が見えるようだ。
そしてトドメは主将の一言。
「バカヤロー、義理でもそこは喜べよ!」
カントクの何かが砕かれた。
「…フ、フフフ」
「リコ?」
項垂れて笑い出す友人の背に手を添え、不安げに名前を呼ぶ遥。
突如勢い良く顔を上げたカントクは涙目で叫んだ。
「ガタガタ言わんとシャキッとせんかボケ───!!去年の借り返すんだろがええおいっ!?1年分利子ついてえらい額になってんぞコラ───────!!!」
息を切らすカントクを宥める役は、例の如く遥と水戸部である。
謝る気があるのかないのか、その様子に笑みを見せた日向は、気を引き締め直して仲間たちへ振り返った。
「…おっしゃ!!」
その姿は、これから王者に挑むに相応しい選手の姿である。
「…行く前に改めて言っとく。試合始まればすぐ体感するけど、1年はちゃんと腹くくっとけよ」
遥はゆっくりと肺の中の空気を吐き出し、目を伏せた。
ただの学生とは言え、マネージャーとして部員たちの成長は直接見てきている。
あれから1年、ほぼ毎日をバスケに捧げた誠凛は、間違いなく強くなった。
個人は勿論、チームとしても。
「正邦は強い!ぶっちゃけ去年の大敗でオレらはバスケが嫌いになって、もうちょいでバスケやめそうになった」
点差だけ見てもトリプルスコア、大好きなバスケが大嫌いになる程の圧倒的な敗北。
それを今、強くなったこのメンバーで塗り替え乗り越えようとしているのである。
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