「わかってたことだけど…正直やっぱキビシーな」
「てかスンマセン、泣きたくなってきました」
伊月や小金井が言う通り、正邦も秀徳も、王者の名は伊達ではない。
「ハッキリ言って、正邦・秀徳とも10回やったら9回負けるわ。でも勝てる1回を今回持ってくりゃいーのよ!」
「………」
ごもっとも、と言い返したいところだが、その1回を持ってくるのがおそろしく困難な話なのである。
それこそ奇跡でも───と、遥は慌てて頭を振った。
確率10分の1は、けして実現不可能な値ではない。
「…遥?」
隣に座る伊月に不思議そうな目を向けられたが、遥は何でもないと微笑んで誤魔化した。
弱気になっては、掴めるものも掴めなくなってしまう。
「……あのさ、作戦ってほどじゃねー…けど、1つ思いついた…」
どうしたのかと、皆の視線が主将に集まる。
「────────」
どこか言いにくそうな様子の彼が口にしたのは、ある意味で最良の博打。
有効であるがしかし、同時に生じるリスクも大きい。
しかも相手は、東京の王者と名高い強豪校なのだ。
仲間が驚きに言葉を詰まらせる中、遥は真っ先に彼を見上げ頷いた。
「私は賛成だよ。それが今の誠凛には最良の選択だと思うし、今の誠凛なら…順ちゃんたちならやり遂げられると思う」
「七瀬…」
マネージャーである遥が真っ先に賛成するとは思っていなかったのか、眼鏡の奥の彼の瞳が大きくなる。
どこか清々しく、割り切った笑みを浮かべた遥は言った。
「リベンジするなら『今』だよ」
次の二連戦は、ただのI・H準決勝と決勝ではない。
誠凛2年にとっては、乗り越えなければならない雪辱戦でもあるのだ。
「……とりあえず、みんな意見くれ」
絶句していた仲間たちが、各々口を開き始める。
水戸部に関しては小金井の通訳での会話となったが、誠凛2年陣の意見はあらかた纏まった。
この時間にやるべきことは、後1つ。
「前に月バスにも載ってたんだけど、正邦って───」
『勝利』のために、『リベンジ』のために、遥は自身の記憶を話し始める。
そしてその後、皆は次々にDVDを再生し、何度も何度も繰り返し視覚で相手のプレイを覚え研究していった。
自分たちの手で勝つために。
END
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