「リコどうしたの?」


遥は横に並び声をかけるが、リコには届いていないようだった。

部員の1人を凝視し動かない彼女の肩に手を置きながら、遥もその視線の先を見上げる。

一際体格が良く、威圧感も群を抜いている彼は、確かに何かが違うようだ。


「カントク!マネージャーも!いつまでボーッとしてんだよ!」

「ごめんっっ」


日向の声に我に返ったリコだったが、隣にいた遥の注意は、そちらより近くにいた影の方に向けられてしまった。

見覚えのあるその姿に、嬉しそうに綻んだ遥。

影も遥の瞳に気付くと、僅かに目元を和らげて頭を下げる。


「テツヤ、もしかしてまた忘れ───」

「黒子!黒子いるー!?」


遥は目を丸くして振り返った。

彼が視界に入っていないらしく、部員たちは名前を呼びながら辺りを見回している。

黒子は遥の横を音もなくすり抜け、リコの前へ歩み出た。


「今日は休みみたいね」


仕方ないといった様子で言うと、リコは片手を上げて気が散った部員たちの注目を促す。


「いーよじゃあ練習始めよう!」

「あの…スミマセン。黒子はボクです」


目の前に、人。

体育館が一瞬、静寂に包まれる。


「きゃぁぁあ!?」


リコの悲鳴に遥は肩を跳ねさせた。

日向たちも、驚いた様子でリコの目の前にいつの間にかいた少年を見て───再度驚いた。


「うわぁ何?……うおっっ!?」

「いつからいたの!?」

「最初からいました」

「ウソォ!!?」


黒子の登場に、体育館は一気に騒がしさを取り戻す。

2年生は勿論、1年生もざわつき始めた。


「…え?じゃあつまりコイツが!?『キセキの世代』の!?」

「まさかレギュラーじゃ…」


黒子の登場により騒がしくなった理由は、突然現れたというだけでなく、彼があの中学バスケ界最強、帝光中出身だからだ。

その帝光中でレギュラーともなれば、『キセキの世代』と肩を並べる恐ろしい人材が入部することとなる。


「それはねーだろ。ねえ黒子君」

「…?試合には出てましたけど…」

「だよなー…うん?」

「え?…え!?」

「「え゛え゛ええ〜〜〜〜〜!?」」


黒子は影が薄く、お世辞にも体格がいいとは言えない。

帝光バスケ部レギュラーと言われても、素直に信じられないだろう。


「凄い反応だね…さすがテツヤ」


黒子を知っている遥はまだしも、立て続けにショックを受けた部員たちは、開いた口が塞がらない状態だ。


「ちょっと遥!さっきから静かだけど、マジなのコレ!?」

「そうだ七瀬!帝光出身ウチにもいたじゃん!」


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