秀徳対錦佳の試合は、王者秀徳が圧倒的な力の差を見せつける展開となっていた。
2階観客席でその試合を眺めている誠凛メンバーの空気はやや固い。
「第2Q残り4分でもう30点差…。さすが…って感じね」
カントクのセリフに反応を返す者はいなかった。
遥は横目で隣に座るカントク、そしてその先に並んで座っている2年生を見る。
押し黙る面々が試合に向けているのは、真剣で鋭い眼差し。
「でもやってることはオレらとあんま変わらないのに、なんかスゲーカンタンそーにバスケやるよな…なんでだろ?」
「それはミスがねーからだよ」
1年生の疑問に答えたのは、前席の背もたれに腕を預け、前のめりに試合に集中していた主将の日向だ。
「バスケってのは常にハイスピードでボールが行き交うスポーツだからな。ただパス捕るだけでも捕りそこねることは珍しくねー」
バスケは速さが鍵となるスポーツである。
一概には言えないが、攻守の入れ替わりも激しければ、みるみる得点が追加されていくことも珍しくないスポーツだ。
「けど強いとこってのは、例外なく投げる・捕る・走るみたいな当たり前の動きからキッチリしてんだ」
そんなスピードが重要なスポーツで必須なのは、素早い状況判断力と、それについていけるスキル。
早い話、『どれだけミスなく、ゴールにボールを運ぶという作業をこなすか』で勝敗が決まるということだ。
「カンタンそうに見えるってのはつまり…基本がガッチリできてるってことだよ」
目の前で圧倒的な力を見せつけている秀徳は、個人が基礎的な技術をしっかり身に付けているため、皆が作業を理解し、作業をこなすことが出来ている。
従って、一枚も二枚も上手になっているのだ。
「ま、あくまで基本だ。それ以上の理由が当然ある。…それは」
ちょうど、試合が秀徳のオフェンス・リバウンドとなった。
マークを振り切りボールを手にした4番が、相手選手たちを吹き飛ばす強烈なダンクを叩き込む。
「絶対的な得点源がいるってことだ…」
秀徳高校4番・大坪泰介。
ゴール下の2メートル近い壁である彼は、秀徳にとって心身共に逞しい主将だろう。
「すげぇダンク」
「マジあれ高校生!?」
何人つこうが、あのインサイドの要を突破するのは難題だ。
「また一段と力強くなってるわね」
「去年アイツ一人でも手に負えなかったんだけどな…」
今年厄介なのは、インサイドの高く厚い壁だけではない。
アウトサイドには、とんでもないシューターが加入している。
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