「ちょっと1年同士アイサツ行ってくるっスわ」

「え?」


目の前にいた遥や他のメンバーが止める間もなく、火神は秀徳ルーキーの元へ歩み出した。


「よう、オマエが緑間真太郎…だろ?」

「……そうだが。誰なのだよキミは?」


対峙する誠凛ルーキー・火神と、秀徳ルーキー・『キセキの世代』の緑間。

火神は質問には答えず左手を差し出した。

緑間の右手はラッキーアイテムで塞がっているし、そもそも彼は左利きではあるが、火神はそれを知っていただろうか。


「……?」


緑間は不思議そうに利き手を差し出した。

すると火神は容赦なく、指先に丁寧にテーピングが施されたその掌に、遥のフェルトペンを走らせる。


「なっ…!?」

「フツーに名乗っても、いかにも『覚えない』とか言いそーなツラしてるからな、オマエ。センパイ達の雪辱戦の相手にはキッチリ覚えてもらわねーと」


どうやら火神は、あの緑間の掌に自身の名前を書いたようだ。


「…フン。雪辱戦?ずいぶんと無謀なことを言うのだな」


見るからに不機嫌そうな緑間の後ろから、同じ1年でレギュラーらしい高尾が口を出した。


「誠凛さんでしょ?てか、そのセンパイから何も聞いてねーの?」


『センパイ』の1人である遥は細く息を吸い込む。


「誠凛は去年、決勝リーグで三大王者全てにトリプルスコアでズタズタにされたんだぜ?」


高尾の言う通り、今でも明確に思い出せる程力の差は歴然、圧倒的な敗北だった。

VS北の王者・正邦、150対40。

VS西の王者・泉真館、131対39。

VS東の王者・秀徳、141対45。


「息巻くのは勝手だが、彼我の差は圧倒的なのだよ。仮に決勝で当たっても、歴史は繰り返されるだけだ」


先程の明常学院の選手の話にもあったが、『新設校が偶然勝ち進んでしまった結果』と言われても言い返せない点差である。

過ぎ去った過去はもう、変えることは出来ない。


「……落ちましたよ」


不意に緑間の手から落ちたぬいぐるみを拾い上げ、黒子は言った。


「過去の結果でできるのは予想までです。勝負はやってみなければわからないと思います、緑間君」

「…黒子」


忌々しげに名を呼びながら、緑間は黒子を見下ろす。


「やはり…オマエは気にくわん。何を考えてるか分からん目が特にな…」


遥の記憶では、緑間と黒子の仲は悪くはなかったようだった。

しかし、考えの読めない黒子のことを、緑間が得意にしている様子もなかったのである。


「言いたいことは山ほどあるが、ここで言っても虚しいだけだ。まずは決勝まで来い」


I・Hの仕様上、王者・秀徳との対戦の場は、この都予選Aブロックの決勝しか用意されていない。

そして、あの秀徳が決勝に駒を進めないはずはないのだ。


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