「その雪辱を果たすために1年間練習してきた!しかも新戦力もいる!今年は必ず倒す!!」


重く暗い空気を断ち切るように、日向は声を張る。


「何よりまずは目の前の相手だ。集中して…」

「おいおい、今日の相手って誠凛だろ!?ヨユーだよ。去年決勝リーグでボコボコにされてたじゃん」


突如、何やら騒がしい声が誠凛主将の鼓舞を遮った。

コートに足を踏み入れながら無遠慮に騒いでいるのは次の対戦相手のはずだが、見覚えのあるその姿に遥は「あ」と小さく声を上げる。


「いくら王者相手でもあれはねーって。新設校が偶然勝ち進んじゃっただけだよ!」

「……!?」

「んんん───!?」


遥と同じ日同じ時間同じ場所にいた後輩2人、黒子と火神も彼らに気付いたらしい。

此方に向かってくるのは、海常との練習試合の後ストリートで、火神、黒子、黄瀬の滅多に見ることが出来ないであろう即席チームに瞬殺完封された、あの柄の悪い学生だったのだ。

誠凛のことを大声で見下すその態度は褒められたものではないが、遥は気にすることなく平然としていた。

相手の力量は前回の対戦で把握済みである。


「今年もそうならないようオレらが代わりに…」


先頭を歩いていた選手が、頭1つ分程大きいであろう火神にぶつかった。


「よう、また会ったな」

「こんにちは」


再会したいつぞやの対戦相手に挨拶をする、火神と黒子。

すっかりトラウマになっていたらしく、彼ら───明常学院の選手たちは、声にならない声を上げ途端に顔面蒼白となる。

思わず苦笑いな遥の姿は、おそらく彼らの視界に入っていない。


「え!?黒子達知ってんの?てか何このスデに勝てそうな空気!?」


と言うわけで、VS明常学院、108対41で瞬殺圧勝。

あっさり勝敗が決まったそのとき、急に辺りが騒がしくなった。


「オイあれ…」

「来たぞついに…今年は特にすげーってよ…」


試合を終えたばかりの誠凛メンバーも皆、固唾を呑んで騒がしさの原因に注目する。

期待や動揺、そしてベンチ入り出来なかった部員からの歓声に包まれながらやってきたのは、同ブロックシード校。


「東京都三大王者の一角…」

「東の王者…秀徳高校……!!!」


不撓不屈の垂れ幕を背に入場する秀徳選手たちからは、揺るがない威厳と余裕が感じられる。

主将の大坪を先頭に、3年の宮地、高尾と呼ばれていた1年生、そして彼。

十中八九ラッキーアイテムであろう、柔道着のくまのぬいぐるみらしきものを手に乗せている後輩の姿に気を取られていた遥に、頭上から声が降ってきた。


「七瀬センパイ」

「!」


いつの間に隣にいたのか、声の主は新たな後輩・火神だ。


「何かペンないっすか。ボールペンじゃなくて」

「…?こんなの?」


遥は手元の学校指定の鞄から筆箱を抜き出し、その中から普段使っているフェルトペンを手渡した。

軽く頭を下げた火神は手中のペンを握りしめ、「よし」と意気込む。


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