体育館に集まった1年生たちは、好奇心からか緊張からか、落ち着きのない様子だった。

この中から何人が入部するのかは定かではないが、思ったより勧誘の効果はあったようだ。


「よーし、全員揃ったなー」

「1年はそっちな」


挙動不審に周りを見渡す者もいれば、リコを横目に何かを話している者もいる。

彼女の少し後ろでそんな彼らを眺めていた遥は、誰が見ても機嫌がいいと分かる程笑顔だった。


「楽しそうね」

「うん」


遥が目線をそのままに頷くと、リコに声がかかる。


「…カントク」

「あ、うん。じゃ、そろそろ始めますか」

「いってらっしゃい」


遥に見送られ、リコは動き出す。

きっと1年生はいい反応を見せてくれるのだろうと、遥は静かに心躍らせていた。


「だアホー、違うよ!」

「「ぁいて!」」


何かあったのか、1年生2人が後ろから日向にど突かれたと同時に、まだ若い女カントクは前へと歩み出る。

そして事実を告げた。


「男子バスケ部カントク、相田リコです。よろしく!!」

「「ええ〜〜!!?」」


予想通りの反応に、壁の花を決め込んでいる遥は小さく声を漏らしながら笑う。

リコのことをマネージャーとは思えど、カントクと思った1年生はいないだろう。

驚きながら、リコの背後にいる危なっかしい教師を指差す者もいるが、それは正しい反応だ。


「ありゃ顧問の武田センセだ。見てるダケ。マネージャーはアッチよ」


リコの指先に誘導されるように、1年生全員の目が体育館壁際で笑っていた遥へと向けられた。

何十もの目に見つめられ、遥はたじろぐ。


「え、そんな一斉に見られると恥ずかしいんだけど…」

「何言ってんのよ、普段から目立ってるクセに。はい、マネージャー自己紹介よろしく!」


リコに促され、遥は一歩前へ出ると頭を下げた。


「2年、マネージャーの七瀬遥です。皆が部活に打ち込めるよう全力でサポートするので、宜しくお願いします」


第一印象が大事だろうと出来る限りの笑顔を見せると、1年生たちは軽く頭を下げたり、「っす」といった控え目な返事を返す。

遥の挨拶には驚くところもツッコむところもないからか、緊張感を持った初々しい反応といったところだろう。


「リコのときみたいに、『ええ〜〜!!?』って反応ないと、ちょっと寂しいね」

「いや今のに驚くトコないから」


溜め息を吐くと、リコは1年生たちに向き直った。


「……じゃあまずは」


遥がいる場所から顔は確認出来ないが、女カントクが今どんな意地悪げな表情をしているのかは手に取るように分かっている。

そして次に、ノリのいい後輩たちがどんな反応を返してくれるのかも。


「シャツを脱げ!!」

「「え゛え゛え゛〜〜〜〜!!?」」


先程よりもいい反応が返ってくるも、カントク命令に拒否権など存在しない。

シャツを脱ぎ上半身裸となった彼らを、リコの双眸が順に捉えていく。


「キミ、ちょっと瞬発力弱いね。反復横とび50回/20secぐらいでしょ?───キミは体カタイ。フロ上がりに柔軟して!───キミは…」


続け様に特徴を言い当て、指示を飛ばしていくリコ。

身体能力が全て数値で見える───彼女の特技はまさに監督者に相応しいものだろう。

からくりが分からず驚きを隠せない様子の1年生たちに、日向は声をかけてやった。


「彼女の父親はスポーツトレーナーなんだよ」


その間に女カントクは、一際体格のいい1年生の前へ。


「………!」

「?」


リコの様子がどこかおかしいことに気付いた遥は、彼女へ歩み寄った。


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