「…なっ」

「え…!?」


コート上に突如現れた黒子のパスが『お父さん』をすり抜け火神のゴールに繋がったわけだが、一体何人が今の一瞬でそれを理解出来ただろうか。

神出鬼没な彼の活躍により、『お父さん』をはじめとする新協陣は勿論、観客すらも度肝を抜かれているようである。


「そーいやあんな奴いたっけ…!?てか今どっから…!?」


リスタート直後、新協主将は苦しげに言いながら、8番選手へパスを出す。


「とにかく1本!返すぞ!!」


が、しかし。

彼の手に触れる前に、見えない力を加えられたボールはバウンドし高く舞い上がった。


「ウソだろ!?」


ゴール前に浮かぶボールを鷲掴み、火神はダンクを叩き込む。

相手に攻撃の隙を与えぬまま、誠凛連続得点だ。


「マジかよ!?スティールしたボールをそのままダンク!?」

「ってかいきなりダンク2連発って…予選1回戦だぞオイ!!」


驚愕の色の濃い歓声が耳に心地好い。

その声を背に、遥はベンチからルーキー2人を眺め、小さくガッツポーズ。


「よし」


自分のことだけでなく、おそらく元仲間のことでも静かに怒っているのであろう黒子は、存在が『影』でありながらとても強い光を内に秘めた人物だ。

遥は時計に目を向けた。

時間はまだある。


「くそっ…!」

「誠凛ってこんなに強かったか!?」


次は新協の攻撃だ。

しかし彼らは、誠凛ルーキーである黒子のパスと火神のDFに阻まれ、点を稼ぐことが出来ないまま第1Qを終えてしまうこととなった。


「第1Q終了──!!」


鳴り響くブザーと共に遥は立ち上がる。

マネージャーの仕事は、試合を見守り記録するだけではない。

選手たちがベンチに戻ってきた。

スコアは新協学園8対誠凛23。

黒子はしっかり、カントクの条件をクリアしている。


「オッケ、ナイスファイ!」

「15点差!?スゲェ!!」


当然ではあるが、賑やかな誠凛ベンチに対し、新協側のベンチの雰囲気は悪そうだ。

第2Qから手強くなるのは目に見えている。

戻ってきた仲間たちにドリンクやタオルを手渡しながらも、遥の思考は別のところにあった。


「マジすげっス!てか圧勝!?」

「何言ってんの!むしろここからが大変なのよ」


すっかり興奮してしまっている1年生を叱りつつ、カントクはベンチ前にしゃがみ込む。

大事なミーティングの開始だ。


「黒子君!交代よ」


予想通り、真っ先に告げられたのは黒子の交代だった。

だがこれはマネージャーである遥も含め、全員が分かっていたことだ。

自身の特性を理解している黒子も素直に頷く。


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