「へ?黒子君先発?」


もう試合が始まるという間際、直談判しに来た黒子に、カントクは目を瞬かせた。

遥は彼の背を見つめ、タオル片手に苦笑い。

黒子の訴えが理解出来るからだ。


「黒子君には時間制限があるでしょ?控え選手として戦況見て出してくって言ったじゃない」


黒子はその特性からフル出場出来ず、また意外性も大きいため、カントクの言う予定通りの策は有効と思われる。

が、今の彼は別のものに突き動かされているのだ。


「お願いします」

「なんでそんな血走ってんのよ?」


やる気十分、その瞳は爛々と輝いているらしい。


「……リコ」


策も大事だが、選手の心意気を買うのもありではないか───という意味を込め、遥はカントクの名を呼んだ。


「…ま、初っパナからカマすのも嫌いじゃないし…いーわよ!」


案外簡単に許可は下りたが、勿論その分条件がつく。


「…ただし、いきなり切り札見せつけるんだから、中途ハンパじゃ逆効果よ。第1Qで最低10点差はつけなさいよ!」


コートに黒子を含む両校選手が出揃った。

いよいよI・H予選、開幕だ。


「それではこれより、誠凛高校対新協学園高校の試合を始めます!」

「「しゃす!!!」」


コート内最高身長である『お父さん』は早速、誠凛陣を見下ろし溜め息を吐いた。


「今日のテキもミんな小さイ…日本人ゴハン食べテる!?シかもさっきハ子供がベンチにいたシ…」

「子供じゃないです」

「ワァッ!?てベンチじゃなくテ、スターター!?ナニソレ!?」


知らぬ間に背後にいた黒子から返事が返ってきたため、『お父さん』は慌てて振り返る。

200cmの彼からすれば皆小さい部類に入るだろうが、コート内最低身長である黒子は一際小さく、そのひ弱そうな見た目も相俟って驚かれるのも頷けてしまう。

皆が位置についたところで、試合は開始された。

ジャンプボールは火神と『お父さん』だ。

2人が飛び上がる。


「うおっ!?」


制したのは『お父さん』だった。

壁はかなりの高さらしい。


「おお、まずは新協ボールだ!!」


ボールを持つ『お父さん』の前に、火神は素早く立ち塞がる。

お構いなしに、『お父さん』はシュートモーションに入った。

火神も追いかけて腕を伸ばす。


「……!!」


しかしDFを物ともせず、ボールはゴールへ吸い込まれていった。


「来たぁ!高い!!」

「先制は新協学園だ!!」


『お父さん』のシュートは、何の変哲もないただのジャンプシュートだ。

おそらく普段の火神ならボールを叩き落とせていたのだろうが、その彼がまんまと先制点を許してしまう程200cmは高いのである。


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